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銀座森前

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久々に日曜日の銀座に車で出かけた。路上駐車場を探していたら、偶然にも七丁目の「銀座森前」の前が空いていた。あいにく小雨模様の一日だったので、傘をさしながら、ショーウィンドゥの中の盆栽をしばし鑑賞することにした。この時は季節がら、枝ぶりのよい紅梅が鎮座し、いつものことながら見事な作品となっていた。

「銀座森前」の存在を知ったのは、もうずいぶん前のことになる。当時、発刊されていた盆栽や水石の情報誌「WABI」も定期購読し、妻と一緒に埼玉県の盆栽村にも足しげく通ったことが懐かしく想い起こされる。

私達が魅かれた盆栽は、床の間に置かれる松や梅などの、いわゆる型にはまったものではなく、大胆かつ迫力のある比較的大きなサイズのもので、季節によってその表情を変える自然の神秘さに感動しながら、あちこちの展示場を巡ってはカメラに納めて目の肥やしにしたものだ。

手入れが行き届いた見事な作品を見るにつけ、何となくこの世界の魅力が分かりかけてきた頃に出会ったのが「森前」だった。ここの盆栽は、一味違った。言葉では言い表せないが、とにかくセンスがよろしく、古くないのだ。

森前とは森前誠二氏のこと。まだ会ったことはないが、全国の愛好家の中でも、確かな知識と技術、それに加えて抜群のセンスで注目され、盆栽界をリードする若き旗手であるらしい。その著「お洒落な大人の盆栽入門」は、氏のセンスがよく表現されていて、写真にある作品は、どれもが「和の美」を感じさせてくれるので一読をお勧めしたい。

そんな現代風盆栽の代表格だった「銀座森前」の事業が数年前に突然行き詰まり、やがて「WABI」も廃刊となった。折しも、海外では日本の盆栽が大変なブームとなっているそうで、本家本元が生き残れないのは皮肉なものである。

今日でも「銀座森前」の店舗は継続されている。お弟子さん達が奮起して事業の立て直しを図っているのだろうか。その価値を理解する各界の実力者が応援しているのだろうか。ともあれ、森前氏本人は私より一回り若かったように記憶する。ただ好きなだけで、趣味の域にも達しない私達夫婦だが、近い将来、また森前氏の作品に出会える日を楽しみに待ちたいと思う。

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