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旅と鮨と建築と

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仕事の合間を縫って、見知らぬ街を訪ね歩く旅を続けている。古い街並みや寺院など建築的な興味に結び付けての小旅行だが、日頃の運動不足の解消にも役立っている。一人旅が多いこともあって、楽しみな夕食は鮨屋に立ち寄ることが多い。

先月も小旅行の折に、中国地方のある老舗の鮨店に寄ることにした。5年ぶり、二回目の訪問となる。ところが、新幹線のデッキから予約の電話を入れると「あいにく満席です」と断られた。たいていはここで諦めて次の店を探すのだろうが、急遽ネットなどで探した店はハズレが多い。

「満席になるのは何時から? それまでの間で何とか」この一言で、早い時間に入店を許された。5時の開店と同時にカウンターに座り、貸し切り状態で主人を独占し、脂の乗った瀬戸内のアナゴを食しながら、至福の一時間半を過ごすことに成功したのだった。

私の鮨好きは周囲の知るところだが、最近、単なる趣味を超えて、茶道や書道に近い精神修行になってきたから自分でも笑える。さしずめ鮨道とでも言えようか。この場合の鮨とは、厳選したネタに一工夫された江戸前鮨を指す。鮨は主人と客の真剣勝負でもあるので、単にすし飯に刺身が乗っかったような安易なものは鮨とは呼ばない。

ところで、最近流行のネット内の口コミは、ほぼ当てにならない。余計なものが溢れている店、生臭い匂いがする店、主人が怖い店、シャリが柔らかい店、ゲタという台に一度にドカンと並んで出てくる店、ネタケースの中が汚い店、常連客が馬鹿笑いをしている店などは論外。

私の場合、初めての店では、妻から急用の電話がよく入る。「あっそう、大変だ、すぐ帰る。大将、お勘定お願い」

新潟では3軒目の鮨屋でようやく落ち着いた。

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