周辺の環境を読む(2) - 土地を選ぶ - SE構法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

周辺の環境を読む(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2001/11/27(できるだけ毎週火曜日発行)

  第1章 土地を選ぶ

   4.周辺の環境を読む(2)
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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.周辺の環境を読む(2)

 隣接の、しかも南側に10階建てのマンションがそびえ建つ。
とすれば、私達が購入した土地はスッポリとその日影に覆われるではないか!
一日中太陽が拝めない、寒々とした凍りつくような敷地のイメージが頭の隅々
まで果てしなく広がっていく。

 よくよく日照には恵まれない運命なのだ。
「妻よ許せ、俺が悪かった。もう少し世間を疑う性格を持っていたらこんなこ
とには―。俺の人生こんなもん。」
勿論妻は放心状態。胃がすっーと融けていくあの感じがご理解いただけようか。

 妻との会話が途切れて数日たった。「設計者の腕で、意地でも僅かな光をも
ぎ取ってやる。」とやっと思えるようになった頃、地主の管理会社から連絡が
入った。名義変更料や建て替え承諾料の交渉と契約のためだ。

 憂鬱な気分のまま、いまさら土地の購入を白紙に戻せるわけもなく、交渉の
場に臨むことにした。
 地主はこの地域一帯で広く土地を所有し、借地の契約も多数の人々と交わさ
れているということで、提示された金額も相場かなあ、と思える範囲のもので
あった。

 借地に新しく建物を建てる時に住宅ローンを利用する場合、融資する金融機
関は決まって「地主の承諾書」を要求してくる。
 前述の名義変更料や建て替え承諾料の金額が折り合わなかったり、何か感情
的なトラブル等があると地主はこの承諾書の発行を拒むこともあるらしい。
その点、私の場合は相手も慣れたもので、あっさり承諾の捺印を押してもらっ
た。

 さて、これで一連の作業が終わり、借地ではあるが、都心のしかも駅近くに
90坪近い土地が、名実共に私達夫婦のものになった。黙っていれば、借地と
か所有権とか誰にもわからない。

 「次に、ちょっと折居ってお話しが―」  
借地の契約が成立した直後、管理会社の担当者が姿勢を正して別の書類を取り
出した。
「今度はこちらからのお願いです。」
 ついにきたか。
「―実は、地主のN氏が相続対策も兼ねて、お宅の隣でマンションを建設いた
します。ちょうどお宅が北側になって日影の影響を受けるものですから―。」
 私の頭に暗黒の敷地が広がる。

「N氏もこのことを気にしておりまして―」歯切れの悪い言い訳を遠くに聞き
ながら、私は渡された基本設計図におおいかぶさった。
新築されるマンションの間取りや外観図なんか、そんなものはどうでも良い。
配地図と日影図はどこだ!!
設計は大手のマンションデベロッパー。嘘は無いだろう。 
しばらく沈黙が続いた。

 だんだん私の顔が赤らんでくる。その変化を妻は見逃さなかった。
これまで共同住宅、つまりマンションの設計は仕事として幾つもこなしている
自称「プロ」。図面を見ただけで、完成後の建物や周囲の状況も手にとるよう
に脳裏に描かれる。そのプロが赤面している。
「ああ、やっぱり日当たり最悪なのね。」
そう妻は覚悟した。

「これから永年、お世話になる地主さんのことですので、何とか我慢しましょ
う。」
 私の言葉に、担当者は何度も頭を下げた。きっとこの私の背後に、後光がさ
したに違いない。
 
 普通はこうはうまくはいかないはずだ。自分の家が、大きな建物の影にスッ
ポリ包まれた様子を、図面で説明された北側に住んでいる住民は、その影のレ
ベルが地表面であるか、二階の窓を想定した地上4メートルの位置なのか、あ
るいはその影のできる時が春なのか秋なのか、もっとも影の長い冬至日なのか、
冷静に聞く耳など持ち合わせていない。

 法律では、などと若い設計士が、懸命に説明を試みても不毛の策に等しい。
時に、度重なる説明もむなしく、「絶対、反対」と書かれた垂れ幕が下がちゃ
ったりする。ご丁寧にどくろマーク入りなんかで。

 日影は日影なのだ。自分自身が北側に位置する住宅に住む立場になった時、
その若い設計士は初めてこのことを理解する。

 その夜、私は赤いワインを抜いた。
新築してオシャレな生活が始まったら堂々と、さりげなく封を切ろうと心に決
めている数本のワインのうちの一本である。

「先生だったら、きっと日常的にワインを飲まれているのに違いない。」
新築を機に、一足早くそのオシャレな生活に至ったクライアントから送られた
極上のワインである。
 妻も静かに席につく。
「世に言う自棄酒(ヤケザケ)でしょ。私も付き合うわ。」

 なぜか、妻はすでに酔っていた。

(つづく)

 
 
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