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建築家の自邸、満足と反省の物語

間取りの過程

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2002/5/29(できるだけ毎週火曜日発行)

  第3章 間取りを考える

   4.間取りの過程

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.間取りの過程


私の自邸の設計は、アパートの併設によって大きく影響を受けたことは間違
いない。その意味では、一般の専用住宅にそのまま応用できないにしても、住
宅部分の間取りを考える過程はきっと参考になると思われる。

 さしあたり3階の住居部分のゾーニングは、次のように考えをすすめた。
まず、階段を上りきった位置を境に、東側にパブリックゾーン、西側にプライ
ベートゾーンを配置した。東にパブリックをもってきた理由は単純だった。1
日の始まりの朝食の時、眩しいほどの陽光が欲しかったからだ。これは、以前
住んでいたあの古家が一日中薄暗く、朝夕の区別もつかない中、蛍光灯の明か
りの下で朝食を取っていた反動から、第一番に改善したい欲求に駆られたのだ
った。

 食堂が東南に来れば、おのずとキッチンがそれに続く。「キッチンは、直接
直射日光が入り込まない方がいいのよ。ものが腐り易いから。」妻の妙に悟っ
た進言に圧倒され、素直に従った結果、キッチンは東の位置で、さらに北側に
決定した。このあたりは、とても建築家の行動とは思えないが、弁解が許され
るのであれば、だいたい、こんなことは大学の建築学科でも教えていないし、
家事について主婦に勝てるわけは無い。

 食堂つまりダイニングは、私達夫婦の一番の関心事であった。このことは自
邸が完成して実際に暮らしてみた今でも少しも変わらない。この理由について
は後日詳しくお話したいと思う。

 さて、このダイニングに接続して、居間と称される、くつろぎの場を置くこ
とにした。テレビを見たり、食後にゴロゴロする場所である。家族が集まる夕
食後は、考えてみれば既に日が落ちて暗くなっている筈。必ずしも日の当たる
南にある必要も無いが、ゆっくりできる日曜日を想定すると、やはり日当たり
のいい南側に位置しておくのが無難か。この辺りの考え方はちょっと素人さん
の域を脱しないかも。

 確かに都心の住宅地で、すぐ南に隣家が迫っていて、いくら南側に居間を配
置しても、直射日光はおろか、真昼でも薄暗い空間になってしまうことがある。
設計者としての私は、こんな時は、無理に南に拘らず、やや北側に引いて位置
し、思い切って天井を高く取って、上の方からたっぷりの陽光を取り込むこと
にしている。

 こうしたプランは、これまでもいくつかの住宅の設計で採用し、住み手から
もたいてい評判がいい。私のオリジナルでもないのだが、都心の密集した住宅
地での設計手法として提案しておきたい。

 自邸の間取りに戻る。パブリックゾーンで残るは水廻り。これは通常ごく一
般的な方法なのだが、キッチンの近くにくっつけて、水を使う場所をまとめて
しまうことにした。

 実際、水を使う場所イコール主婦の働き場所と言っても過言ではない。水廻
りは、互いに近くに在ったほうが奥様にうけるに決まっている。さらに、もう
一つの利点は、とかく工事費のかかる給排水工事では、使用個所を近くにまと
めることで、配管の長さが短くなり工事費の削減につながる。配管の長さが短
ければその分故障個所も減り、将来のメンテも楽になる。ビルの設計でも、ト
イレや湯沸し室などの水廻りは一ヶ所にまとめ、また、下から上まで同じ位置
にあるのが常識なのだ。住宅でも同じ事。

 次に、プライベートゾーン。階段を上がりきったところから西がこのゾーン
となる。最初に母親の部屋を水廻りの近くに決めた。しかも冬暖かな南側とす
る。このあたりの配慮に、親孝行息子の片鱗が見え隠れするが、昔から働き者
の母親は、孫の世話と家政婦を兼ねている。キッチンや洗濯機の近くが本人の
希望でもあった。

 ちなみに父親も同居することになったのだが、これがまた手におえないほど
の我がままガンコオヤジ。永く学校の教師を勤め、人に命令することはあって
も、命令されたことはないというスジガネいり。しかも年を重ねるほど重症に
なってきている。長年仕えた母親が、こっそりと「できることなら、なるべく
遠い、別々の部屋にしてくれないか」と哀願した。

 ついに家族会議で、「1階のアパートの1室を母屋から行き来できるように
して、そこがオヤジの個室」と決定した。アパートだから、6畳の洋室に隣接
して、小さいながらもキッチンもトイレも風呂もついている。ガンコオヤジは
誰にも気兼ねなく、好きなときに寝て、ちょいと飲みたい時は熱燗で一杯やり、
うるさい孫たちにテレビをじゃまされることもなく、猫の額ほどの庭をわがも
のにして、えらくご満悦だった。用事があるときは3階に直結してあるインタ
ーホンが鳴る。そのたび飛んでいく母親は大変だがー。

次に、個室の集合体であるプライベートゾーンの核心は子供室の在り方にあ
った。この部屋を環境的に最優先させるべきか、否か。よくよく考えてみれば、
1年を通じてその大方の昼間の時間、子供達は学校に行っていて日が沈む頃、
「ただいま」となる。とすれば、子供室を優遇することは、最近のあまりに子
供を甘やかせている巷の風潮に似ているのではないか。残る主寝室との関係で、
一応南面に位置するが、西の端に押しやることにした。

 その結果、意外に8歳の息子と4歳の娘は、この部屋で遊んでいることが多
い。必ずしも南面させることもないが、明るい部屋にしておく配慮は必要かも。
ちょうど外から帰ってくる時間帯の気になる西日は、道路からのデザインを考
慮して三階は開口部を大きくしなかったのが幸いして2階の私のオフィスほど
過酷な状況にはならなかった。

 残った主寝室は、西側のしかも北側に座った。一見して一番劣悪な位置とも
思えるが、本当に寝るだけの機能と割り切った結果でもある。サラリーマンを
止めてからすっかり朝のまどろみを楽しむ習慣のついた私と付き合いの良い妻
にとって、むしろ朝日の燦燦と差し込む明るい部屋よりは風通しのための小さ
な窓が2つあいたチョツト薄暗い8畳ほどの寝室は、日曜日の昼に近い朝など、
トロトロと、寝てるとも起きてるともつかないような感覚に幸せを感じてしま
うほど。この快適さは子供達にも伝染し、親子4人での就眠は、しばらく続き
そうだ。

 竣工から2年を過ぎ、間取りの評価を問われれば、一応満足の域にあると思
う。しいて誤算をあげるなら、真中を東西に貫く廊下が、子供達にとって、格
好の直走レーンになったこと。走る、走る、しかも全速力で。「また!走っち
ゃダメって、何回言えばわかるの!」母親(この場合は妻のこと)の罵声は、
竣工後毎日続いた。根負けした彼女は考えた。「そうだ、廊下にカーペットを
敷き詰めよう。」いつしか、我が家の廊下には、冬用の分厚いウールカーペッ
トが敷かれることとなった。さらに今では、その下にフェルトと呼ばれるクッ
ション材も追加されている。

 その廊下にも、思わぬドラマが潜んでいた。この廊下の突き当たりに丸窓が
切ってある。西の壁の天井に近い位置だ。設計では、単なる明り取りのつもり
だったが、この直径50センチほどの丸窓から午後三時を過ぎる頃、2階と同じ
ように西日が低く差込みはじめるのだ。この光は時間の経過と共に、廊下のベ
ージュの麻クロスをサーモンピンク色に変えながら、刻々と内部に侵入してく
る。そして遂に15メートルを超える長い廊下のすべてを真っ赤に燃やし、やが
て、セピア色に終焉していく。この光景を初めて目にした時、その光の魔術に
見せられ、僕はその場を動くことができなかった。私の就労意欲をなくすあの
西日と同じはずなのに、全く違う西日の顔であった。

 世に名建築は多いが、思えばその多くがこの光の魔術を取り込んでいる。巨
匠コルビュジェのロンシャンの教会も、ルイスバラガンのヒラルディ邸も、カ
ーンのキンベル美術館もそうだ。私が一時期傾倒していた白井晟一も、「光で
壁を洗う」手法を多用している。あの安藤忠雄もそうだ。まてよ、とすればこ
の私の自邸も偶然の成り行きではあるが、ひょっとすると「名建築」の域に達
しているのではないか。と馬鹿なことを考える自分が哀しい。


(つづく)

 
 
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