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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」
2002/8/14(できるだけ毎週火曜日発行)
第4章 建築構法の選択
3.欠点を補う
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 3.欠点を補う
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さすがの清水棟梁も、慣れない土台敷きには手間取ったが、建て方になると
作業は思いの外、順調に進んだ。柱や梁は全て工場で正確に加工されている。
金物の精度も良いので、手伝いの大工達も要領を覚えた後は、作業を楽しむ余
裕さえ感じられた。
所用を済ませた私が駆けつけた時は、既に午後3時を廻っていたが、真夏の
太陽はまだ容赦なく現場の隅々まで照りつけている。真夏の炎天下で、しかも
屋根が無いのだからたまらない。清水棟梁はじめ、手伝いの大工3人と鳶職の
数人もさすがにまいっている様子。ふと見上げると、なんと2階にネクタイ姿
の作業員がいるではないか。NCNの後藤さんだった。彼のワイシャツも汗で
グッショリ濡れ、下着のシルエットがくっきりと浮かんでいる。ゾクッ。
勿論、彼は営業担当で技術職でも職人でもない。会社としてもこの頃やっと
SE工法の事業化の目途がつき、全国展開を開始した直後で実績も決して多く
なかった。彼は心配のあまり朝早くから現場に立ち寄り、職人に作業の段取り
のアドバイスをしているうちに、いつしかスーツの上着を脱ぎ捨て、建設チー
ムの一員と化していたのだった。建物の延べ面積も45坪を超え、戸建ての住
宅としてはやや大きめだったので、作業は午後6時すぎまで続いた。
片付けを終え、日が暮れる頃、施主の計らいで、昨今珍しくなった上棟式が
始まった。 いつものことだが、苦労の後の達成感は格別なものだ。職人衆もい
つになく口数が多くなる。後藤さんの日焼けした笑顔もそこにあった。施主の
S氏は出来上がった骨組みの重厚感を見てやっと安心出来た様子。これまでの
木造軸組み工法と比べると確かに圧倒的な存在感がある。きっと明朝からは夫
婦の会話も違ってくる筈だ。
施主の挨拶の〆がこれまた憎かった。
「これからも可児さんを信じて、全てお任せします。」
これでは、またもや監理の仕事でも手の抜きようがないではないか。またして
も1本とられた。
精度の高い特殊な金物とプレカット(柱や梁の先端に、事前に工場で複雑な
加工を施すこと)技術の正確さは、マニュアル通りに組み上げただけで、水平
垂直の修正がほとんど不要だった。これには在来工法に慣れた大工達も感心す
ることしかり。
SE構法も全ての梁と柱が組み合って骨組みが出来てしまえば、後の作業は
従来の木造住宅と何ら変わらない。その後の工事は順調に進んだが、そうすべ
てが簡単にいくはずがないと思っていた矢先、やはり問題が発生した。大工が
作業中に気付いたのだが、2階を歩く音が家全体に伝わるのだ。原因を調べる
と2階の床を支える梁の振動が大きいためだった。
このSE工法の大きな特徴のひとつに、構造計算に裏づけされた太さの梁を
使用することによって、在来工法の木造に比べて、柱の少ない大空間が実現で
きることがあげられる。S邸も、2階に20畳を超えるリビングダイニングが
広がっていた。要はこの大空間を支える太い梁がしなっていたのだ。
構造計算上では強度的に何の問題も無い。だが、このしなりが振動となって、
完成後の日々の生活の中で不快感としてクレームになることは容易に想像でき
た。思わぬところから、理論的に構築した新構法の弱点が現れる結果となった。
これまでの木造住宅は、ある意味で大工の勘に頼ってきた部分が多い。彼ら
の経験から生まれる梁や柱の太さの決定は、強度もさることながら、まずこの
ような不快感を生じさせない配慮がされている。今回の出来事から、机上の計
算からだけでは解決できない部分が存在する事を痛感した。
同様の話を聞いたことがある。最近、各自動車メーカーがこぞってドアの閉
まる音を研究しているそうだ。ドア音のデザインに力をいれているという。ド
アが閉まる時の「ボン」とか「バン」という音の良し悪しで顧客は高級感や安
心感を感じ、購入の意思に影響を及ぼすのだそうだ。多少車好きの私にも確か
に思い当たる節がある。つまり、ドアは機能的にただ閉まればよいだけでは済
まないのだ。このあたりがモノ作りに携わる者たちの心をくすぐる要因なのだ
と思う。
清水棟梁と相談の結果、鉄骨で補強することにした。振動の大きい梁の下端
に鉄骨の梁を付加することにした。念には念を。なんてったって「信用」され
ている。裏切る訳にはいかない。奮発して自腹で合計3本の鉄骨を発注した。
結果は良好であった。
その後は特筆すべきような問題は発生することなく、予定通り竣工を迎えた。
こうして多少の犠牲を払いながらもSE構法の実験を終えて(と書けばS氏に
お叱りを受けるが、)この貴重な経験が自邸でのSE構法採用に踏み切る要因
になった。
(つづく)
