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建築家の自邸、満足と反省の物語

工事開始(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2002/8/21(不定期発行)

  第4章 建築構法の選択

   4.工事開始

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.工事開始(1)


私の自邸場合、道路付けが悪く建物の一階部分の半分が車庫で、しかも車が
回転するスペースが必要だった。それに、木造という条件がついている。木造
で柱の少ない広い空間を確保するには、従来の在来工法では多少不安が残る。
こうした時期に偶然出会ったSE構法は、私にとっては渡りに舟だったわけだ。

 ただ、S邸で一応の実験は終えたものの、規模や間取りが違うため、コスト
面や鉄骨の梁補強など一抹の不安はこのSE構法にも残る。だが、そのうち、
「建築家の自邸ともあろうもの、多少の挑戦がなくてどうする。敢えて、第二
の実験台になってやろうじゃないの。」そんな天の声が聞こえてきて腹がすわ
った。あの後藤さんに連絡をとった。

 そんな矢先、私の設計事務所のメインバンクのS銀行から連絡があった。ち
ょうど事務所にいて電話を取った妻の顔から急に血の気が引いていく。「申し
訳ないというのはどういう意味なんですか!」後は聞かなくても判断がついた。
「いったい何が原因なんですか。」気色ばんだ妻の声は震えていた。

 バブル期、S銀行は連日「融資させてください」とやってきた。「使い道が
ない。」と断ると、定期預金にしろという。借りて、返すのが「実績」と説得
された。「実績」をつむと、いざという時の融資がしやすいという。まんまと
その手にのった私が悪いのか。バブルが崩壊したあとも返済だけは何年も続い
た。

 それまで住んでいた古家の住宅ローンもこのS銀行だった。バブル期の高い
金利を黙々と払い、払った割りに元金はほとんど減っていなかった。私達のよ
うに十年ほどで借り換えるのは銀行にとっては一番の上客らしい。どおりで、
銀行マンの給料は高いはずだ。たっぷり残ったローン残金を、一旦自己資金を
はたいて精算し、新しく融資を申し込んで二ヶ月あまり。その間、なんの音沙
汰もなく、突然の電話がこれだった。

 時、巷では銀行の貸し渋りが新聞紙上で問題になっていた。まさか我が身に
その火の粉がふりかかろうとは。これまでの「実績」はどうなったのだ。電話
では埒があかない。銀行に出向いて問いただすことにした。このままでは自邸
の建設は中止になってしまう。

 担当者が申し訳そうに小声で言った。「一番の理由は借地だからです。」確
かに借地権の上に建っている住宅はローンが付き難いとは聞いていた。ただ不
動産に詳しい関係者に聞いたところ、実行されているケースもあるらしい。こ
こで引き下がったらこれまでの苦労が泡と消えてしまう。支店長室に通された
後も、借地権を競売で市場より安く手に入れたこと、アパートが付いていて楽
に返済できることなど力説したが、「本部の決定なので」とかわされてしまっ
た。私も妻も湯呑の蓋を外す手が怒りで震えている。「ダメならダメで何でも
っと早く言ってくれないの。」吐き捨てるように言って私達は席を立った。

 一度事務所に戻った私達は、もう一度資料を整えて、最近取引が始まったば
かりのY銀行に出かけた。そして、今度は直接支店長に面会を申し入れること
にした。Y銀行は数年前に信用金庫から第二地銀に昇格した地元密着型の銀行
で、担当者の対応も心持ち丁寧だった。ただ取引が浅かったのでローンの打診
はしていなかった。と言うよりS銀行に断られるとは夢にも思っていなかった
のだ。

 愛想がよく気さくな支店長は即座に答えた。「応援してあげたいのはやまや
まだが、やはり借地が問題。ついこの間、本部から借地権に融資しないよう、
お達しが来たばかりなんだ。だって担保に取りたい土地が他人名義だもの。」
借地権の問題のひとつがここで露呈した。いよいよ打つ手が無い。さすがに、
私達の落胆ぶりを察して、帰り際支店長が言った。

「借地権でも、新しく建物が建ってしまえば融資は可能かもね。」またこうも
言ってくれた。「ローンは申し訳ないが、事業の方で応援するよ。」うれしい
ような悲しいような。トホホ。


(つづく)

 
 
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