工事開始(4) - 建築構法の選択 - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

工事開始(4)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.32」

  2002/9/24(不定期発行)

  第4章 建築構法の選択

   4.工事開始(4)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。

先日、読者の方より、メルマガを保存する際、タイトルが同じなので号数と
サブタイトルを入れて欲しいとの要望がありました。真剣に読んで下さる方
がいると思うと大変励みになりました。どうぞ、なんなりとご意見をお寄せ
ください。



■ 4.工事開始(4)


 とにかく、式を中断すべきか迷った。儀式は縁起物だ。中断してよいものか。
ほんの短い時間に自問自答を繰り返す。一瞬動揺したように見えた神主さんも
負けじと大声を張り上げる。TVかなにかのお笑いコントのようで、傍から見
れば大笑いするところだろう。だが、人間は予想を越えた事が起きると思考が
止まってしまうらしい。大笑いどころか私の頭の中は真っ白になった。

 二十秒くらいは経っただろうか。どうやらそれが隣接したマンションの開け
放された窓から流れるロックバンドのCDの音だと見当がついてきた。ただし、
半端なボリュームではない。明らかにこの式を妨害するための仕業と見て取れ
る。「一生に一度かもしれない大事な儀式を・・・!」こぶしを握り締める私
は、完全にプロとしての建築家でなく、はじめて家を建てる普通の施主になっ
ていた。

 と、一瞬その音が止んだ。一同ほっと安堵している様子が前列にいてもよく
分かった。こぶしがゆるむ。が、それも束の間、また次の曲が始まり、あたり
をつんざく。もうがまんできない!私はヤクザの大親分のような目つきで、清
水棟梁ともうひとりの大工に目配せで出動を要請した。二人とも、これまた大
親分に忠誠を誓った子分のように「待ってました」とばかりに音もなく動き出
した。私は祈った。なんとしても式の間止めさせてくれ。

 功が奏したのか、しばらくしてようやくその音が止んだ。犯人は近所でも評
判の外人の英語教師。今日に限らず騒音を発するらしい。マンションの大家か
ら注意してもらいその場は静まった。秋風が心地よい九月の出来事だったが、
汗グッショリの地鎮祭で前途多難な予感がした。それからというもの仕事柄、
数多くの地鎮祭に出席する機会があるが、この経験をしてからやけに腹が据わ
って、大抵のことでは動じない自分を頼もしく思う。

 ともかくも午前中に地獄のような地鎮祭を体験して、午後から建物の配置を
決める「遣り方」を実施した。大工に鳶職、設計者に施主まで居るので、家の
配置という重要な事柄を決めるのにちょうど都合がいい。住宅の場合、大抵こ
うしたスケジュールになることが多いのも頷けよう。私達夫婦にもやっと工事
が始まる実感が湧いてきた。

 予め正確な測量図があったので、実際に杭を打って糸を張ってみたが、ほと
んど狂いがない。最初に基準になるのが北側の隣地境界からの建物の離れ具合
いだ。次に道路からの離れ具合も確認申請の図面に記された数値を守らねばな
らない。この2点は役所の中間検査で担当官が最初にチェックする事項でもあ
る。この間隔が10センチ以上違っていると確認申請のやり直しを要求されるこ
とが多い。そうなれば原則として工事は中断してしまう。

 したがって、設計監理者としての私は、習慣的にこの離れ具合のチェック時
には緊張が走る。さらに今回は施主としての立場でより慎重になる。何せこう
見えても建築家の端くれの自邸である。工事中止の赤紙を貼られるのも不名誉
なことだ。

 遣り方で建物の位置が出ると、もうひとつ重要な決定事項がある。設計上の
地盤のレベルを決めなければならない。住宅の敷地は必ずしも平らではない。
むしろ同じ敷地内で20センチ以上の高低差がある場合のほうが多いのだ。建築
の法規はこの地盤面が基準になっているので、この平均のレベルをどこにする
かの判断は重要で難しい。

 設計士としては、斜線制限や採光計算に絡んで厳しい設計を要求された場合、
ついこの地盤面の設定を有利にしたくなる。ほんの数センチのことなのだが、
これが馬鹿に出来ないほど建物に余裕を与え、後の施工性や性能やをよくする
ことは設計士のみぞ知るところである。特に天井高にこだわる私としては安易
に決められない。

 この地盤面のレベルの位置の確認は、役所の検査の対象となっているので、
「まあ、これくらいならいいでしょう。」という検査官の言葉を想定しながら
ギリギリの有利なレベル設定をするのである。勿論これが不当に設定されてい
れば違法の判断が下り、悪質なものは工事停止の対象になってしまう。

 私の場合、つい最近まで古家が建っていてほぼ平坦だったので、道路と接す
る位置で10センチ高いレベルを地盤面と設定した。役所の担当官が見て「まあ、
これくらいならいいでしょう。」と言う範囲だろう。

 遣り方が済んで基礎工事に入る前に地盤調査をおこなった。鉄筋コンクリー
ト造のビルともなれば、基礎工事前の地盤調査が法的に義務付けられるが、木
造の住宅レベルでは設計監理者の地盤の確認で許されることが多い。私の場合、
木造でも3階建てだったので簡易な地盤調査を行うことにした。

 サウンディング方式と呼ばれ、地盤の浅い所であればおおよその見当がつき、
値段も数万円と安い。結果では1メートル弱で赤土の関東ローム層が出た。ま
あまあ良好な地盤だ。住宅の場合、大抵は表層の地盤に基礎を載せるだけで問
題が無いようだが、周囲に比べて低い地域や海岸線の近く、あるいは川や水路
の付近では平板載荷試験というしっかりした調査がお勧めだ。後の祭りになら
ないために。

 地盤調査と遣り方が済んで、工事用の小さな電柱と簡易トイレも設置された。
さあ、いよいよ基礎工事が始まる。自分の家を造る事がこんなにワクワク胸が
躍るものかと今さらながら実感する。期待と不安が同居する。これまで私が設
計を担当した住宅の施主は、みんなこんな気持ちでいたのだろうか。とすれば、
多少経験のある私は、次に展開する工事の内容や出来上がりの姿が見えている
だけに説明を省き、ずいぶん勝手に振舞っていたのかもしれない。いやきっと
そうだ。建築工事をオーケストラに例えれば、施主をもっと頻繁に舞台にひっ
ぱり上げて、いっしょにタクトを振らせてあげるべきだったのかもしれない。

 住宅の基礎は大別して布基礎とベタ基礎の二つがある。建物の外周と部屋割
りの壁の直下を深く掘り下げて、固い地盤に底盤を沈める布基礎が一般的だが、
私の自邸の場合、間取り的に駐車場スペースが広く、荷重が一部の部分に集中
してしまう不安があり、全体で荷重を受けるベタ基礎を採用することにした。

 最近では一般的にベタ基礎の方が人気があるようだが、双方長所と短所があ
る。たとえば、つい最近まで建物が建っていて解体間もない時期に、同じ場所
で新しく基礎を造る場合、古い基礎を撤去するために地盤を掘り返した上にベ
タ基礎を載せればどうなるか。掘り返した畑の畝のようなものと考えれば一目
瞭然だ。つい最近、東京の下町と呼ばれる地域で、確認申請時に役所でベタ基
礎が許可にならなかった。多くの業者が深く掘らないで施工を簡略化するケー
スが多いとの理由で布基礎の方を推奨しているということであった。ベタ基礎
だからいいとは限らないようだ。

 遣り方を終えて一週間が経った。小型のユンボが頼もしく土を掘り返してい
る。当時住んでいた所から歩いて5分とかからないため、ほとんど毎日現場に
立ち寄って帰った。建築確認申請の手続きも終盤だった。もう一週間程で許可
が下りるはずだ。原則は確認申請の前に着工しては違反になるのだが、待って、
待ってやっとここまできたのだ。もう抑揚した心は止められない。「あなた大
丈夫なの?」妻の問いかけに一瞬怯むものの、「土を掘ってるだけではお咎め
はないさ」と切り返す。幸い数日後に建築確認の許可は下りた。

 「よし、これで、堂々と・・」その思いと裏腹に、いっこうに肝心の基礎工
事が始まらないではないか。役所の目を盗んでまで土を掘って備えていたのに。
じりじりあせりがでてきた。「おい、今日も誰も来ていないぞ!」腹立たしげ
に妻に告げると、「ちょっとあなた誰かに似てない?」

 そうか、今か今かと待ち遠しい、あのS氏の心境にウリふたつだったのだ。


(つづく)

 
 
SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト 東京都渋谷区笹塚2-41-13