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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.33」
2002/10/20(不定期発行)
第5章 建築工事
1.基礎工事
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 1.基礎工事
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「一体いつから基礎工事が始まるんだ。」直接鳶の親方に怒りをぶつける前
に紹介者でもある清水棟梁に苦言を呈することにした。相手は職人、一本気な
気質の人間が多い。特に怒る時は要注意。ワンクッション置くのがちょうどい
い。彼の「済みません、直ぐ入るように言いますから。」の一言で気持ちは落
ち着いた。
設計監理者として冷静に考えれば、基礎工事を担当する鳶の職人も、直ぐに
工事に取り掛かりたいのだろうが、なにぶんすべて野外での仕事。雨天順延と
なり、前の工事にケリをつけなければこちらに来れないのは十分に理解できる。
しかしながらひとりの施主としては、今か今かと待ち遠しく、頭から離れない。
じらされた時の施主の気持ちが今になってイヤというほどよく分かる。
これまで数多くの施主に対して「大丈夫だから任せなさい。」の一言で片付
けてきた私は、人の気持ちのわからない大馬鹿者だったかも。「いついつ工事
に入ります。」の、ほんの一言が足りなかった。改めてあの時のS氏にも謝ら
ねばならない。
彼は日課であるジョギングの際、決まって建設予定地の前を通り、手付かず
の敷地を見ていつもガクッと膝が折れたに違いない。この時、工事を請け負っ
た私は決してサボっていた訳ではなく、初めての工法で準備に忙殺されていた
のだが、確かにS氏に対して工事スケジュールなどの適切な報告を怠っていた。
工事が遅れるのならなおのこと。本当にその節はゴメンナサイです。
それからさらに一週間程して、現場にやっとミニバックホーと呼ばれる掘削
機械が運ばれてきた。鳶の親方とは初対面ではないが、清水棟梁が所属する工
務店の紹介なので、こちらも多少遠慮がある。現場で「親方、待ちくたびれた
よ。」と嫌味のひとつも言わせてもらったが、「いやぁ、前の現場が長引いち
ゃってよ。」とあっさり切り返され、その場は終わってしまった。悔しいけれ
ど、いよいよ明日から掘削が始まるかと思うと嬉しさが勝っていた。
翌日私達夫婦は、恐る恐る現場に行ってみた。近づくにつれてブォー、ブォ
ーというエンジン音が聞こえてくるではないか。「お、いるいる。」職人3人
とミニユンボが動いている。お昼近くだったがもう半分くらい掘れている。
「うれしかー」妻は興奮すると決まって長崎弁がでる。それから二人はしばら
く言葉もなく、ただ作業に見入っていた。
実際、掘削してみると、所々に赤土が顔を出す。これが関東ローム層という
もので、比較的安定した地盤として認識されている。もうあと30センチも掘れ
ば、全てこの赤土になるのだろうが、反面基礎が深くなりコストもかかる。こ
こで万全の策をとるとすれば、ローム層に届くまでさらに深く掘り進めるか。
以前お爺さんが普請道楽だったとかで、「基礎の金をケチるな」との家訓と
笑いながら特別頑丈な基礎を要求した施主がいた。一理あるが、基礎だけ百年
もっても仕方ないではないか。確かに万全ではないかもしれないが予算だって
決まっている。もっとも金融公庫の融資を受けるため、公庫仕様はとっくにク
リアーしているのだがそれでも自邸となると・・・。
結局、よく突き固めればよいと自らを説得し、当初の設計通りの深さで留め
ることとした。なまじっか知識があるばっかりにあれこれと思い悩んでしまう。
工事が始まったすぐからこれでは先が思いやられる。
ところで、基礎工事の技術的なポイントをいくつかあげるとすれば、まず根
切り(土を掘削すること)のあとに割栗石と呼ばれるこぶし大の石をケチらな
いで十分入れてよく突き固めることだ。特に基礎の下になる部分には石を土に
突き刺すようにして隙間なく並べることが大事である。そしてしっかりと転圧
をかける。
次に重要なのが基礎の高さだと思う。コンクリートの基礎を地面からどれだ
け立ち上げるかが鍵。一般的に30センチ程度が多いのだが、経験者の間では40セン
チを主張する人が増えている。湿気に弱い土台を庇ってのことだろうが、都市
部の市街地で斜線制限を受け、頭が抑えられる現実の中で40センチを確保する
のは甚だ難しい。
ところが小生、実際に大雨の中で、カッパ姿で雨ダレがどのくらい地面から
跳ね上がるか観察したことがある。案の定、結果は最悪。なんと30センチは軽
く跳ね上がっているではないか。自然は脅威だ。
土台や柱の付け根が湿気を帯びれば、木造にとって大敵のシロアリが住みつ
くのに絶好の環境が整う。仕事柄よく解体現場を見ることがあるが、決まって
建物の下部の木材が黒ずんでいる。雨水が入り込んで腐っているか、シロアリ
にやられているのだろう。反面、柱や梁、それに屋根材などは予想以上に木肌
が美しく、再利用できるのではないかと廃棄するのが惜しまれることもある。
そういえば私が生まれ育った茅葺の民家は縁側が高かったし、京都の古寺も
靴を脱いでからさらに何段かの式台を上がって木の床がある。代表格の桂離宮
に至っては高床式の典型でもあるかのように床下を人が立って歩くことが出来
る。これらの木造建築が何百年も建っていることを考えると、妙な小細工を施
すより、自然の理に適った方法が一番長持ちさせるコツなのだと今さらながら
実感してしまう。
ともあれ、一度作ってしまったら修理が容易でないが故に、特に注意を要す
る基礎の部分。その具体的な施工方法については、住宅金融公庫の標準仕様書
に則って進めることが一番無難なようだ。実はこの私も住宅の設計を始めた当
初はもっぱらこのピンク色の冊子のお世話になっていた。最近やっと応用がで
きるようになってきたが、図解入りなので一般の人にも多少は理解できると思
う。役所の検査もほぼこの仕様に準じている。いずれにしても、昔から高温多
湿の風土には変わりが無いのだから何百年もの間それ故の工夫がされてきた木
造建築の基礎のあり方を、先人の知恵から学ぶべきだし、強いて加えるとする
ならば、いかに耐震構造を取り込むかということか。
ところで最近、住宅の施工技術をあれこれ取り上げて説明している参考書が
書店に多い。時々手にとって見てみるが、失礼ながら一般の施主の皆さんには
理解が難しいように思われる。一方、「手抜き工事をされないように、毎日で
も現場へ行きなさい。」とアドバイスする先輩も居るが、実際のところ手抜き
を見つけることはそんなに容易ではない。大体がそういう信頼がおけない人達
に工事を頼むことがそもそも間違いなのだが、もしもの場合、私だったら経験
のある設計士や大工に頼んで、職人のいない日曜日にそっとチェックしてもら
うだろう。
職人の肩を持つわけではないのだが、手抜き工事ではないかと施主に疑われ
ることほどヤル気を削がれるものは無い。明らかな手抜き工事は論外として、
本来こうしなければと思われる作業を省略して仕上げてしまう場合は私の知る
ところでも意外と多い。これらは元来、予算が厳しい時に発生する。職人も人
の子。それぞれ生活がかかっている。やるべきことをきちんと施工できる時間
と予算が確保されていれば、手抜き工事つまり簡略化した仕事をする必要も無
い。必要な資金も用意しないで一流の仕事を求める施主の側にも問題がある、
といつに無く私は力説しておきたい。
私の現場もそれから2週間程して、コンクリートの基礎に土台を固定するア
ンカーボルトと呼ばれる鉄筋を埋める作業になった。在来工法ではこの作業も
基礎工事を総括する鳶職が行うのだが、SE構法では柱の付け根に特殊な金物
を取り付けることと、しかもその位置の精度が高く要求されるため、私はS邸
の時と同じく大工の清水棟梁を呼んだ。と、どうだろう。彼は早速、秘密兵器
を用意して現場に現れた。
前回の経験から、5ミリの誤差でアンカーボルトを埋めることが出来る装置
をベニヤ板を加工して作っていた。やはり職人はこうでなきゃ。特に私のパー
トナーはこうでありたい。しかし、そんな彼の仕事でも百本近いボルトの中で
2箇所だけ5ミリ以上の誤差が発生していた。正直な彼のこと、「どう直しま
すかネェ・・・」後日対処の方法を相談されたが、私も明確な解決策を指示で
きないで悩んでいた。ところが2~3日して、きちんと柱脚金物が取り付いて
いるではないか。
どうやら上棟の前後に誰かがハンマーを叩いて力づくで修正したようだ。こ
のことを発見した私は最初は唖然としたが敢えて咎めることはやめた。理由は、
この構法自体に問題があるからだ。そもそも現場仕事で5ミリの精度を求める
のが無理な話。ここにもSE工法の欠点が見つかった。
基礎工事の段階で、わざわざ大工を出動させて、しかも秘密兵器を駆使して
も、完璧に金物を取り付けできない現実がある。おそらく他のSE構法の現場
ではここまで注意深く配慮されているとは信じ難い。つまりは、もっとハンマ
ーが活躍しているに違いない。現場施工という現実の中での施工方法を早急に
開発して欲しいものだ。
(つづく)
