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建築家の自邸、満足と反省の物語

上棟式(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.34」

  2002/12/5(不定期発行)

  第5章 建築工事

   2.上棟式

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

10月から年末にかけて竣工現場が重なり、メルマガ発行が思いの他遅れてし
まいました。ご購読いただいている皆様スミマセン。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 2.上棟式


 晩秋の大安の日、曇りがちだが雨の心配は無かった。その日は朝から落ち着
かない。コンクリートの基礎の上に敷かれたヒバの土台。その上に昨日搬入さ
れた4トントラック一台分の柱と梁が横たわっている。アパートも併設してい
るため、一般の住宅の2倍近い木材が使用されるが、敷地に余裕が無く道路も
狭いので、次のトラックは午後に到着することになっていた。

 午前8時にはクレーン車も到着し、清水棟梁の合図でいよいよ建て方が始ま
った。いつもの事だが私は少々遅れて現場に着いた。(芸術家は総じて朝が弱
い、なんちゃって。)すると、なんと既に一階の柱はほとんど建っているでは
ないか。下準備は大変だが、この段階までくるとさすがにSE構法は早い。ま
るでプラモデルを組み立てるかのように軽快に作業が進んでいく。この構法を
初めて経験する土屋棟梁も早くも要領をつかんで、建て方の作業を楽しんでい
るようにも見て取れる。土屋ジュニアの動きも軽快だ。

 予定通り午後には2台目のトラックが到着。材料が直接荷台からクレーンで
吊り上げられ、所定の位置にセットされていく。このペースでいけば1日です
べて組み上げられるのではないかと思われた。実際その後も順調に作業は進み、
日が翳る頃には搬入された材料のほとんどを使いきり、2階までの建て方が終
了した。明日は残りの3階部分と屋根、つまり棟上げだ。


 職人衆が引き上げた直後、子供達と爺ちゃん婆ちゃん達が現場を覗きに来た。
私と妻の両方の両親だから計4人、あれこれ賑わしい。一応それぞれ長男と長
女が築く初めての家となる。一様に嬉しそうな顔つきだが「この不況の時代に
本当に大丈夫か」との心配があるに違いない。いくつになっても親からすれば
子供は子供、無理もない。

 2日目はよく晴れた。秋晴れと言っていい。早朝から3台目のトラックが待
機している。手際よく作業が開始した。私はこの日のメインイベント、上棟式
の準備があり、現場には午後から出掛けることにしていた。

 ところで、このごろは職人達のほとんどが車で現場にやってくる。だからだ
ろうか、あまり派手な上棟式の宴会はやらなくなった。その昔、私の親父が建
てた建前の時の記憶を呼び起してみる。当時、私は小学校4年生。裸電球の下
で大勢の人が夜遅くまでワイワイと騒いでいたような覚えがある。竹で編んだ
大きな皿にヒノキの葉っぱが敷かれ、その上にご馳走が乗っていたものが配ら
れていたような。もちろん餅投げの儀式もあった。

 それを聞いた妻も「長崎も一緒」と驚いた。そしてお祭り好きの彼女は、密
かに「餅投げ」のセレモニーを企画していた。投げるのは施主である自分、そ
して参加者は長男の小学校の同級生達と彼女の妹の子供達である。妻の妹も妻
に輪をかけたお祭り人間、その昔、長崎で両親が新築した時の記憶をたどって
朝から餅の確保に奔走していた。駄菓子も付けなくてはいけないらしい。

 職人衆には手土産として、二合瓶のお酒、赤飯のはいった祝い膳の折詰め、
饅頭、そしてご祝儀が用意された。この他に今日現場で飲み食いするつまみや
飲み物が用意してあるはずだ。これから大変な出費となる施主にとっては少々
辛いものもあるが、ここはひとつ昔からの慣習に則ってババーンと。

 通常、大工はふたり一組で仕事をこなす。しかし、上棟ともなると人手が必
要で、高所作業の中心的存在である鳶職人の他に、数人の大工仲間が助っ人に
やってくる。友情出演といったところか。この人達には、工務店から日当が支
払われているが、上棟の日の作業は危険も伴い、力仕事で疲労も極限に達する。
第一、彼らは自分の仕事を休んで応援に駆けつけてくれるのだ。主役の棟梁と
しても仲間の労をねぎらいたいところ。

 そこで、施主からご祝儀でも出ようものなら、自分に見入りがあるより数倍
嬉しいし顔も立つ。これが今後の仕事に直接影響するかどうかは別として、施
主の感謝の気持ちは必ず伝わる。逆に棟梁が施主への感謝の心を忘れないで仕
事を続けてくれれば、きっとよい結果に結びつく。額の大小は問わず、施主側
としては心がけておきたいものだ。

 現場は午後になって屋根を構成する登り梁の組み立てに入っていた。私もま
だぐらぐら揺れる柱に抱きつきながら、梁づたいに3階のレベルを歩いてみた。
これからずっと生活することになる空間とそこからの眺めが初めて現実のもの
となった。「うん、日当たりも十分だ。3階のせいもあり都心にしては遠くま
で眺望が開け、開放感もある。よしよし、いいぞ。よくやった。」このときば
かりは、あの美人ランナーの心境。少しだけ自分を誉めてやりたい気分がした。
おっとここで、妻の采配と粘りにも感謝を忘れてはなるまい。

 ところが、世の中そんなに甘くない。ほろ酔い気分も束の間、「おーい、ち
ょっと待ってくれ。」土屋棟梁の叫び声からその事件は始まった。工場で正確
に加工された木材が屋根の段階にさしかかった時、急に組めなくなったのだ。
何か変だ。まず、クレーンの動きが止まった。皆が3階に集まってきたが、そ
の原因がわからない。

 しばらくして「これ、屋根の勾配が違うんじゃないの。」大工の長年の勘で
土屋棟梁が最初に見つけた。どうやら原因は片方の柱がすべて20センチほど短
かったのだ。最初の数箇所は長い梁がしなって、何とか組みあがったものの、
だんだん形が出来上がってくるとごまかしが効かなくなってきたらしい。

 「どうしてこんなことにー。」今日も心配で立ち会ってくれていたSE構法
の生みの親、(株)NCNの担当後藤さんの顔から血の気が引いていく。職人
衆の手前、立場も無い。携帯電話で工場の担当者に連絡をとっている。「今す
ぐ現場に来て修正できないか。」やり取りが数分続く。そして、声がだんだん
荒立ってきている。「何、無理?何とかしろよ、コノヤロウ」とまで言ったか
どうか。勿論工事は中断・・・。

 ところが、このとき傍にいた私はこのミスの原因がこの私にもあったことに
気付いた。一般に、きちんとした仕事の時は、設計図をもとにより詳しい施工
図を書くことになっている。そういえば、数週間前に私はこの施工図を承認す
る時、悩んだあげく屋根の勾配を変えたのだった。真相はおそらくこの変更が
工場内でうまく伝達されなかったのだろう。そういえば最終図面の承認はして
いない。確かに工場のミスだが再度確認しなかった私にも責任の一端が―。

 とにかくこれまで無理をして組んだ屋根部分をすべて解体することにした。
手作業では歯が立たない。幅が45センチ、長さ5メートルもある太い斜め梁を
ワイヤーで吊ってクレーンで引き上げることにした。クレーンが起動した。と、
そのとき無理に組まれていた梁はメリメリ、ビシッと悲鳴をあげながら柱から
抜け落ちた。たかが木材と軽視していたが、近くにいて万一接触でもしたら数
十メートルは弾き飛ばされるほどの迫力があった。同じ作業を慎重に繰り返し、
屋根の部分をすべて取り外した時は、日が落ちかかっていた。これでは上棟に
ならないではないか。

 そんなことはつゆ知らず、下界では大きな盆に小ぶりの紅白の餅と、色とり
どりの包装紙に包まれた飴や煎餅の駄菓子と、そしておそらく中身は5円玉で
あろうおひねりまでがうず高く積まれて出番を待っていた・・・。


(つづく)

 
 
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