上棟式(2) - 建築工事 - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

上棟式(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.35」

  2003/6/13(不定期発行)

  第5章 建築工事

   2.上棟式(2)


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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。


━━━━━━━いやぁ、大変長らくサボってしまいました。

昨年末から年始にかけて完成引渡しの現場が重なり、超多忙の毎日で、メルマ
ガ発行がスッポリ頭から抜けておりました。最近になり、「やめたのですか」
というメールが届いたり、「しっかり書かんかい!!」と(これは知人。私は
彼がメルマガの読者であることを知らなかった。)叱咤激励を受けまして、再
度奮起、筆をイヤ、キーを叩くことにいたしました。

また、6月の自邸ショールーム公開日に来てくださって初めてお会いしたMさ
んからは、「半年間メルマガ発行もホームページ更新もないから、こんなご時
世、もしや事務所消滅か。」とご心配いただいていたとのこと。(エエッ!)
と驚くと同時に、(世間はそう見てたのか・・)と反省することしきり。実に
申し訳なく、またありがたい一日でした。

ところで実をいうと、小生頑固なまでのアナログ志向。今でもあまりコンピュ
ータなどというものは信じていません。ホームページを作った最初の頃は、意
気込んで建築に関するいろんな問い合わせに寝る間を惜しんで返事を書いたり、
土地の相談には、大手不動産会社に頼んで情報を提供してもらったりしました
が、返事も来ないなんてこともあり、今ではまずはお互いのお顔拝見から始め
ることにしたいと思っています。こんなことを書くとまたメルマガさぼる気か
とお叱り受けそうですがー。



■ 2.上棟式(2)


 おそらく妻の故郷、長崎の風習なのだろう。なにせバクチクを鳴らして騒ぐ
祭り好きな人達だ。きっと今でも上棟式ともなれば、あれこれ工夫を凝らして
いるに違いない。そういえば私の故郷に近い名古屋市。嫁入り道具をトラック
に積んで見せびらかすことで有名だが、あの地域でも似たような習慣があった。
妻とその妹は幼い頃の記憶を頼りに、その真似事をしてみたかったのだろう。

 さて困った。棟木と呼ばれる屋根の一番高いところの部材が納まっていない
のに棟上げ、つまり上棟式を挙行しても良いのだろうか。しばし、思案に暮れ
ていると、やや、どうしたことか、幼稚園の園児や小学生達がぞろぞろと現場
の入り口付近に集まり始めているではないか。この家の上棟式が目当てなのは
容易に察しがついた。

 ちょっと待てよ、ここで、「上棟式は中止」なんて言おうものなら、私のか
わいい子供達はお友達からどんな仕打ちを受けるものやら。子供に罪はない。
幼心に苦い思い出も遺したくなかった。もともとあまり神仏に頼る私でもない。
それ程縁起をかつがなくてもよいではないか。すぐさま、上棟式決行の決断を
した。

 清水棟梁の指示で、手際よく座敷が作られる。座敷と言ってもベニヤ板のテ
ーブルに柱を横に並べてベンチの代わりにした簡単なもの。日も暮れかかって
きたので、裸電球が吊られいよいよ雰囲気が高まる。そして、用意していた料
理の大皿が並べられていく。子供達の待ち遠しい顔つきを見かねて、妻が先に
モチ投げの儀式を所望する。まあ、祝い事。無礼講も許されよう。興奮した私
達は、順番なんかどうでも良くなってきた。

 やおら、二階からオモチやお菓子、そしてティッシュのおひねりが降ってき
た。子供達の悲鳴に似たはしゃぎ声が、辺りにこだまする。思えば妻も私もそ
れぞれ数十年前の子供の頃に、同じような体験をした。今日ここに集まってく
れた子供達も将来いつか同じような振る舞いを繰り返してくれるのだろうか。
その時には、今日の出来事を遠い記憶として呼び起してくれるのだろうか。何
でも簡略化してしまう傾向のある昨今、ちょっと不安が過ぎった。

 予期せぬトラブルが発生して、話題も増え、職人衆もいつもより饒舌になっ
ていた。ここには参加者全員の笑顔がある。誰ともなく祝いの歌がでた。設計
士の先生の家という義理もあったのだろうか、歌が続く。私の番になりちょっ
と焦った。これまでも上棟式では歌ったことは無い。カラオケが苦手な私は、
人前で歌うことに慣れてはいない。はた困ったが、このままでは場がシラケて
しまう。とっさに「木曾節」を思いついた。生まれ故郷に近いところに伝わる
民謡だった。祝いの歌でもないのだろうが、こうした宴では不思議と民謡が似
合う。「キソノナー。」と二番まで続けておさめた。これまた義理でアンコー
ルの声が飛んだが、笑って繕った。二番までしか知らなかったのだ。こうして
上棟式の宴は二時間近くにおよんだ。通常の倍の時間である。

「家を新築する時が、人生の中で最良の時。」よく耳にする言葉だが、実に的
を得ていると思う。今までいくつもの上棟式に出席したはずの私だが、不覚に
もアツイものがこみあげる。数々の施主が脳裏をかけめぐった。きっと誰もが
こんな気持ちだったに違いない。

 翌日、短かった柱も修正され、午後に入った頃、棟木が座り、屋根の小屋組
みが完成した。やっと本当の上棟が出来たわけだ。今日も後藤さんの姿がある。
勿論、昨日の険しい顔はそこにはない。私の顔を見るなり「本当にご迷惑をお
掛けしました。どう、お詫びしたらよいものか」と恐縮しかり。ところで私と
しては、この言葉を待っていたわけでもないのだが、上棟が一日延期された分、
クレーン車の費用や、応援の職人達の日当は予定外の出費である。これは痛か
った。来月には必ずや請求が来るという現実がある。まして、この道のプロで
ある私は「ゴメンナサイ。」では許されない。

 通常こうした場合は請け負った工務店が費用を負担する。だからこそ請けて
負けると書くのだ。しかし、私の場合は設計施工を試みている訳だから、他人
のせいにもできない。後藤さんは昨日の出来事を上司に報告し、会社として償
いの案を用意していた。具体的に金銭での弁償は難しいものの、今後供給予定
の合板などの材料の単価をギリギリまで値下げると言う。金額としては充分で
はないが、その気持ちが嬉しかったので、それで手を打つことにしたのだった。

 それから数日間、秋晴れの晴天が続き、工事はみるみるうちに進んでいった。
SE構法といえども、上棟が済んで、荷重を支える柱と梁が組みあがってしま
えば、後の工事は一般の在来軸組み工法と何ら変わらない。


(つづく)

 
 
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