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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.36」
2003/6/21(不定期発行)
第6章 外装
1.住宅のスタイルを決める屋根
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 住宅のスタイルを決める屋根
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上棟後の最初の工事は、屋根を架けることだ。言うまでも無く、骨組みの木
材の大敵は水、つまり雨に濡れないことである。とにかく雨に降られないうち
に、屋根だけ完成すべく大工達は急ぐ。勿論、仕事をしている自分達にとって
も雨に濡れながらの作業は辛い。その点で、一日で屋根の骨格まで立ち上げ、
その後数日で屋根を完成させてしまう在来工法は、雨天の多い日本の風土には
合っている。逆に、だからこそ、この工法が確立されたと言っても良いのかも
しれない。
一方、比較的乾燥地帯の北米地域で普及したツーバイフォー工法は、やや不
利な工事手順を踏まねばならない。この工法では、三階建てなどの場合、屋根
まで組み上げるのに、十日以上はかかる。この間、まったく雨に降られないと
は考えにくい。たとえ床の合板が雨に濡れようと、そのまま工事を続行しなけ
ればならない。この工法を推奨している大手住宅メーカーは、そんなことは百
も承知で、立派に雨を凌ぐシステムが確立されているのだろうが、雨天の中で
放置されているツーバイフォー工法の現場を、過去に何度か見かけたことのあ
る私には、今のところ、どうしてもこの工法を採用する勇気が無い。
さて、話は設計段階に戻る。今回の自邸の設計で、私が最後まで迷ったのが、
この屋根の材料を何にするか、だった。実は、構造が木造と決まってから直ぐ
にその迷いが始まっていた。他の専門家の異論もあろうが、木造の場合、屋根
は瓦が一番と決まっているからだ。少なくとも多少の経験をもつこの私には、
そう断言せざるを得ない。建築家など存在しない世界中いたるところで、自然
発生的に瓦が採用されている事実からも頷けよう。
「だったら迷わず瓦にしたら。」製図盤の隣で妻の佳子さんが意地悪を言う。
「建築家の妻」という言葉は悲しいかな世間一般では通用しないが、八年近く
連れ添っていれば、夫の悩みはそう簡単なものではないことを百も承知。その
彼女は長崎出身だ。しかも、クリクリとした目と、武器にでもなりそうな太く
て長い髪を見る限り、きっと遠い先祖はポリネシア方面の島々からの漂流者に
違いないのだが、これが人一倍暑がりときている。彼女は居住空間が三階と決
まった時点から、夏の暑さをしのぐことに神経を尖らせていて、私の事務所に
ある建築関係の書物を読み漁り、瓦が一番涼しいと知ってから、断然屋根は瓦
と決めている。
設計事務所として、建て主から「屋根は瓦で。」と懇願されれば、さほど悩
みも伴わないに違いない。確かに居心地や将来のメンテナンスを考慮すれば、
最善の選択と思う。ところが、建築家の自邸ともなると、「ちょっと待ったな
のである。」何故か。
まず、何か新しいことに挑戦していない後ろめたさがある。つまり、どこか
の大工さんに依頼しても同じ答えが返ってきては、建築家の存在価値が問われ
ることになるからだ。以前、私の知っている設計士が和風住宅を設計する際、
特注で白い瓦を製作して採用したことがあった。確かに挑戦的で、建築家とし
ての自己満足はあるにせよ、ちょっと無理があるような気がしていた。
また、瓦葺きでは、屋根に勾配が必要となる。しかも、経験的に、かなりき
つい勾配にしなくてはならない。そうした自然の摂理に従えば、どこから見て
もただの「家」の形に落ち着くことになる。勿論、私の自邸の場合、敷地に余
裕は無いのだから、軒の出は最小限にカットされる。例えば、平屋で深い軒の
出のある屋根が醸し出す、その堂々たる日本建築の美が再現されるのであれば、
「本当の美を見出せる建築家」としての自邸として許されようが、如何せん、
軒の出が無いに等しい瓦屋根では、翼のもがれた鳥のように無残な姿を露呈す
ることは最初から明らかだった。
さらに、瓦葺の屋根にした場合、建物の周囲に立派な雨樋が取り付くことに
なる。これがまた、デザイン的には厄介なのだ。水の流れを考慮して、少し傾
けて取り付けねばならないし、材質はほとんどが塩化ビニール製だから、時間
がたって味が出てくるなんていう代物ではない。最近では、ビル用の樋を参考
に、ステンレス製の美しいものも発売されているが、すこぶる高価でとても使
えない。
このところ、毎月のように住宅を特集した建築雑誌を買い込んで研究してみ
ると、やはり瓦屋根の建物は純和風と思われるものを除いて、ほんの数えるし
か掲載されていない。屋根はあくまでフラットなのだ。時々、片流れか半円の
カーブ屋根が許される程度。確かに、多少名の売れた建築家の作品では、雨樋
の付いた瓦屋根は皆無と言ってよい。私自身、今さら瓦屋根がうんぬんと言っ
ているようでは、その時点で建築家の資格が問われているような気にもなって
いた。少なくとも建築家を自称するのであれば、多少の冒険を犯してデザイン
を優先すべきなのだろうか。現代の防水材と断熱材に頼って、屋根をフラット
にすべきなのか。答えが出ないまま悩める心はいよいよ深みに落ちていった。
たかが屋根の形状と材料選びなのだが、実はこの屋根の形が、はっきり言っ
て、建物の全体像を決めてしまう最も重要な「決め事なのだ。」と言うことを
私は経験から学び取っていた。例えば、寝癖のついた髪形では、いくらスタイ
リッシュな洋服をまとっていても、その時の自分に自信が持てないのと同じだ。
住宅に限らず、ビルの設計の場合でも、一番難しいのは、てっぺんの空と交わ
るスカイライン。ニューヨークの象徴ともなっているエンパイアステートビル
を例にとるまでも無く、人々の心に残る名建築はこのスカイラインが、しっか
りデザインされている。
(つづく)
