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建築家の自邸、満足と反省の物語

外壁は何がいいか(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.39」

  2003/11/13(不定期発行)

  第6章 外装

   3.外壁は何がいいか(2)


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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 外壁は何がいいか(2)


 「木造住宅の外壁は左官仕上げと昔から相場が決まっている。」
単純な私は「やっぱりそうか。」と信じたくなるのだが、私の自邸の場合、こ
れを鵜呑みに出来ない理由があった。まず、屋根と同じく、道路に面したわず
かな西面を除いて、大半の外壁は通りからはまったく見えてこない。さらに、
アパートを内包しているため、外壁の量は半端ではないのだ。

 こうなると悲しいかな、屋根と同様にコスト面と将来のメンテナンスを最重
要ポイントに上げなければならなかった。軒の出も少ないので、雨は容赦なく
外壁を叩くことだろう。周囲には民家も建て込んでいるので、風の抜けも充分
でなく、部分的にはジメジメして乾きが遅い場所もあるに違いない。

 こうした理由から、性能本位で外壁材を選ぶと、不本意ながら、あの味も素
っ気も無く、しかも新建材の典型であるサイディングに軍配が上がってしまっ
た。ただし、さすがに良心の呵責に耐え切れず、表面的には何の装飾も無い一
番シンプルなもので、しかも厚いものを選んだ。どうせ妥協の産物なのだから
と、淡いグレーの塗装済みの製品を選ぶことにした。天候が一定しない現場で
の塗装より、工場で予め塗布処理されているほうが塗装の性能が勝ることは否
めないからだった。

 サイディングの施工方法は四、五年前からメーカー主導で全国的に普及して
いる通気工法を採用した。建物本体と全体を被服するサイディングとの間に、
1センチから2センチ程の隙間を作り、空気の対流を促すことで、木造の欠点
である湿気を少しでも取り去ろうとする意図がある。その効果は説明書に書い
てある程では無いとしても、サッシの脇辺りから入り込んだ雨水がその空隙に
添って下に落ちてくれるのであれば、確かに建物を長持ちさせる効果はある。

 サイディングの長所は、工場生産品のため材質が一定していて丈夫なこと。
壁全体が細かいパーツで分割されているため温度変化などによる収縮が吸収さ
れて、ヒビ割れが目立たないことだ。弱点は縦方向に走るジョイント部のシー
ル剤の寿命が短く、十年と持たないこと。そして、貼った時が最も美しく、そ
れから年月と伴にだんだん薄汚れていく運命にあることだ。

 建築確認申請時に、外壁の材質を表記しなければならない。施工中に変更に
なっても、同等の防火性能を満たしていれば、検査時にも役所からとやかく言
われることは無いが、「本当にいいのか?」と自問自答を繰り返したあげく、
「一部不燃材の塗り壁」と書いてしまった自分の往生際の悪さが恥ずかしい。

 実際のところ、道路側のよく見える西面の外壁だけは、セメント系の燃え難
い下地を左官仕事で作って、表面にペンキを塗り、3年に一度のペースで塗り
直すことに決めた。いきなりペンキとは極端な判断とも思えたが、これ!とい
う最適な素材が見つからず、ヤケクソ気分でそう決めてしまったのだった。こ
れでは読者に何の参考にもならないのだが、多少弁解が許されるのなら、コス
トが安いことが一番。次にデザイン的にはそれ自体の存在感が強調されなくて、
すっきり仕上がるシンプルさを狙う意図があった。

 ペンキはほんの皮膜で、いくら頼まれても他人の住宅には決して採用できな
い薄っぺらな表情ではあるが、比較的安価な材料だから、その分、こまめにメ
ンテをすることを覚悟すれば、美しい顔が保てるのではないか、との期待があ
った。これまでにも説明したように、敷地は奥に長く、よく見える西側の一面
は、外壁全体8分の1程度だけだから、将来塗り直しのための足場代もしれて
いる。

 かの伊勢神宮が、20年ごとに神殿を建て替えて、いつも神聖な美しさを維持
していることは周知の事実である。恥ずかしながら私は、このことを自分の結
婚式を伊勢で挙げた時に知った。以来、いにしえ人の偉大なコンセプトに驚嘆
して、いつか真似てみたいと考えていたのだった。そのスケールは比較になら
ないものの、今ようやく自邸でその真似事が出来るとはなんと愉快なことだろ
う。

 ところで、このような外壁の選定の方法で、罪悪感を拭えない気持ちも味わ
った。人目につく部分の外観だけデザインして、見えない部分は適当に仕上げ
てしまうやり方は、一般に「看板建築」と呼ばれ、寂れかかった地元商店街の
店舗によく見られる光景だ。きっと、志のある建築家ならばこのような仕事は、
頼まれてもきっぱり拒否するところだろう。おそらくこの辺りのこだわりで、
誰もが認める一流の建築家と自称建築家にはっきり分けられるのだろうが、こ
の私の場合幸い「アパートを併用した建築家の自邸」なんてどこの建築雑誌の
編集部も取り合ってくれないことは最初から判っていたので、意外と早くこの
罪悪感は消えていった。


(つづく)

 
 
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