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建築家の自邸、満足と反省の物語

内装制限の中で(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.42」

  2003/12/23(不定期発行)

  第7章 内装

   1.内装制限の中で(1)


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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 内装制限の中で(1)


 住宅の設計に限れば、つい最近まで内装制限なんかで悩んだことはなかった。
そもそも内装制限とは、壁や天井に使用する材料が、燃え難いように法的に規
制されること。一般の皆さんには、こんなところまで法律が及ぶのかと驚かれ
るかもしれないが、実は、私の最も得意とするホテルの設計では、いつもこの
内装制限との戦いでヘトヘトになるのだ。空間を商品とするホテルの場合、燃
え難い材料ばかりを使用すれば、味気の無いものになってしまう。「仕方が無
いでしょう。」と開き直ってしまえば二度と私のところにホテルの仕事は来な
い。現実は厳しいものなのである。

 それに比べれば、住宅の場合は楽なもの。よほどの大邸宅で無い限り、火気
を使用するキッチンの壁と天井だけを不燃材としておけばこと足りていた。実
際のところ、つい最近までは、建築確認申請の時点で、具体的に仕上げ材料が
決まっていなくても、「不燃材」と書いておけば何の問題も無かった。ごくま
れに、建築指導課の担当者が女性の場合は、紅い鼈甲のメガネの奥の目尻を吊
り上げて、「ちゃんと材料名と認定番号を書いてください。」と睨まれること
もあったのだが。賢者は長いものには巻かれ、女性には逆らわないことになっ
ている。

 ところで、平成になって規制緩和の一環として、木造の3階建てが全国的に
認可されようになってから様子が一変した。この木造3階建ては、専門用語で
は準耐火建築物と呼ばれ、外部はおろか、家の内部の床、壁、天井まで不燃性
の建築材料で被覆しなければならないという条件付なのだ。万一の場合、避難
がし難いがための予防措置なのだが「自分の住宅を作るのに何でお役所がそこ
まで口出しするのか、余計なお世話だ。」と怒りたくもなる読者もきっと多い
のに違いない。かく言うこの私もその一人。しかし、職業上、お上には刃向か
えない。法律だから諦めるしかないとつねづね自分を律しているのだが、これ
またお役所は、「日本の伝統文化や情緒を無視して、ただ燃え難いだけの無愛
想な室内空間を内包する住宅が続々と誕生していく原因を作ってしまったので
ある。」と力説しておきたい。

 この準耐火建築の場合、内部で木を面として見せてはいけないのだから、い
くら木造でも木の肌がもつ暖かさはまったく表現できないことになる。あの美
しいヒノキの柱や力強いケヤキの梁も見せてはいけないのだ。これでは木造で
作る意味が半減するのだが、お上に正論は通用しない。要は、床も壁も天井も、
目に付く所は全て、石膏ボード(不燃材と認められている一般的な建築材料の
代表格。石膏を板状にして、両面に紙を貼った物)で被い尽くして、その上に
さらに化粧を施すことになる。勿論この化粧も不燃材という条件がつく。実は
私の自邸は立派にこの準耐火建築物に相当するので、こうした条件下での内装
選びが始まった。

 さて内装を決めるにあたって、なにかテーマが無くてはいけない。なにせ建
築家の自邸の設計だ。「なんとなくこうしました。」では許されない。早速、
事実上の施主である妻に相談することにした。誤解を招くので言い換えれば、
妻の意見を聞くことにした。新婚当時、「自宅をコンクリート打ち放しで作ろ
うぜ。」と口にした時、急にオイオイ泣き出した妻のことだ、きっと夢と希望
があるに違いない。実はあの時、建築家仲間でもてはやされていたコンクリー
ト打ち放し仕上げが、一般人には「あんな倉庫のようなものぜったいにイヤ。」
と思われていることを初めて自覚した。

 ところで返ってきた言葉は「そんなもの分からない。あなたの考えを具体的
に出して頂戴。そうしたら意見が言えるから。」だった。やっぱりそうきたか。
業界用語で言えば「叩き台を出せ」と言うことだ。この手の施主は意外と多い。
自分ではこれこれと言えないものの、出たものには注文がつけられ、自分で決
めたという満足感を味わうらしい。

 そこで、最初に浮かんだのがライト風のイメージだった。この私が建築の道
に入った動機は、旧帝国ホテルの設計で知られるフランク・ロイド・ライト設
計の別荘を写真で見たことだった。今でも私の潜在意識の中には、近代建築の
巨匠と言われるこの人の作品が、深く刻まれている。
「よし、これだ。これで行こう。」
しかし、それもつかの間。すぐに夢から現実に引き戻されるはめになった。


(つづく)



□ 閑話


 ―とある現場で―

 工事が終盤にさしかかった頃、現場の左官職人から電話が入った。
「もしもし、先生。外壁の仕上げ材が20袋ばかり足りません。至急追加してく
ださい。」
「そんな馬鹿な、ちゃんと計算して発注してあるんだ。どっかに紛れてんじゃ
ないの。」
「いや、ちゃんと調べました。下塗材は少し余るぐらいで丁度いいんですが。
上塗材だけ足りないんです。」
「とにかくメーカーに聞いてみるから、待ってて。」

 実は、この現場もご多分に洩れず、予算との睨めっこ。すこしでもムダが出
ないようにと気を遣いながら、シラス火山灰の新しい素材と聞くとどうしても
使いたくなる私の性分。予算ギリギリで発注した矢先の電話だった。

「もしもし、Sさん、御社のカタログどおり発注したら、上塗材だけずいぶん
足りなくて現場が困っちゃってるんだけど。ちょっとおかしいんじゃない?」
「そ、そ、そんな馬鹿な。こんなクレームは初めてですよ。職人さんの腕は確
かなんですか。厚く塗りすぎてるとか...。」
「私がいつも指名している職人だから間違いはないよ。ちょっと歳だけど...。
とにかく仕事が止まっちゃうから至急送って。あーあ、これでまた予算オーバ
ーだよ。」

 それから数日後、現場に行った私は唖然となった。なんと、外壁の周囲に白
い粉が降り積もっているではないか。それも大量に。よく見ると、あの追加注
文した上塗材だった。すかさず私は職人を捕まえて声を荒らげた。

「おい、どうして材料捨てるんだ。」
「え、でも」
「でもも、クソも無いだろう。高いんだょぉ、この材料。」
「え、でも先生。仕上げを聞いた時、確か『カキ落とし』って言いましたよね。」
「ムム...。」
「『カキ落とし』って聞いたんで、『カキ落とす分』厚く塗ったんですよ。足
りない筈ですな。」
「あっちゃー、原因はこの俺か」

 しかもこの左官職人、裏のまったく見えない部分まで丁寧に『カキ落とし』
てあった。そんなとこ、単に金こて押さえかハケ引き程度で十分だったのに...。
常々、「俺の見てないところで手を抜くような職人はいらん。」と豪語してい
る私には、二の句が告げず、ただただ建物の周囲に雪のように積もった白い粉
が、この上も無く憎かった。

 古来、立派な和風建築の外壁は、カキ落とし仕上げが多い。一旦塗って、カ
キ落とすのだから、たしかに重厚な味わいが得られるわけだ。納得した。それ
にしても高い授業料だった。


 本年もメルマガご購読ありがとうございました。自邸建築の他に書いてみた
『閑話』がおもしろいと反響をいただき、時折皆様にお届けしたいと思います。
それではよいお年を。

 
 
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