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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.46」
2004/5/10(不定期発行)
第7章 内装
2.壁材を選ぶ(2)
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 壁材を選ぶ(2)
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一方、出隅のオンパレードとなる廊下や階段室、居間やダイニングといった
共用スペースの壁は何が良いのだろうか。それ程広い家でもないので、あれも
これもと違った材料を使いたくはなかった。そもそも出隅に強い材料なんてあ
るわけも無いのだが、残るは木か左官材となる。防火規制の関係で、木は面と
して使用できないので、おのずと塗り壁が候補に上がってきた。筆頭は勿論漆
喰であった。下塗りに中塗りそして上塗りと結構手間がかかることから、最近
でこそお目にかかる機会が減ったが、湿度調整までこなし、しかも人体に無害
な内装材としてはこれ以上のものは無いのではないかと思われた。
石灰を主成分に、固まりやすくする為のノリと割れを防ぐスサが入った漆喰
は、仕上がったばかりの純白の、押さえ気味の光沢がなんとも凛々しく、奥ゆ
かしい博多人形のような女性を連想するのは私だけだろうか。確かに本物を感
じさせる漆喰は、年を経るごとに味が出てくる材料のひとつでもあるが、敢え
て難を言えば、手垢などの汚れがつき易いこと。これは女性も同じか。いつま
でも純白の美しさは―。
それはともかくとして、不燃仕様のプラスターボードでは十分な下地が作れ
るわけは無く、将来のひび割れも若干心配だった。しかしそれは、漆喰自体を
否定してしまう程のことでもない。ここはやはり文句無く漆喰に決めようと最
新のカタログを取り寄せることにした。最近では、ひび割れし難いように改良
されたものも発売されているようだ。
しかし、またまたここで迷いがでた。漆喰がいいことは十分承知の上でも、
手放しで採用することに躊躇した。「たかが自邸、されど自邸」理由は簡単。
前述したあの瓦などと同じく、建築家の自邸ともなると、何か新しい挑戦が無
くてはならない。古き良きものばかりを追求してはいけないのだ。建築家とは、
なんと悲しい性なのだろうか。
そんな折、「左官でも何でもいいけれど、触ったらポロポロ落ちるようなも
のや、汚れやすいものはイヤよ。」妻からの要望は絶対だった。この一言を振
り出しに、新しい材料探しが始まった。一般的にはジョリパットが普及してい
るが、手垢もつくし、塗った時の質感が乏しい。次に珪藻土の見本をとった。
なるほど手触りも「人に優しい」感じがあるが、比較的白っぽいものが多く、
汚れは避けられそうにない。それと、最近ちょっとブームのようになっていて、
新鮮さが無いようだ。次は火山灰のシラスを原料とした薩摩中霧島壁。表情は
珪藻土に近く、今ひとつ決定打とならない。
「灯台元暗し」と言うべきか。答えはごく身近にあった。シッタという左官
材料だ。シッタは(イタリア語で都市という意味)の商品名で、正式には合成
樹脂左官材となる。細かく砕いた大理石に樹脂を混和させて左官仕上げにする
ものだ。自然の大理石を使用しているため、経年変化に強く、紫外線などに当
たっても色が褪せにくいため、最初は外壁材として開発されたようだ。しかし、
外壁としては遠く離れて見た場合、悲しいかなただの吹き付け塗装に見えてし
まう。
ところが、これを室内に塗ってみると、その大理石の粒が質感を出し、実に
深みがあって存在感のある仕上げになって見えるのだ。このシッタを内装材と
して使用する最初の実験は、妻の兄、つまり義兄の自宅だった。尾道の私立病
院の一角を改装して作られたこの住宅は、私が住宅の設計を本格的に始めて間
もない頃の習作とも言えるものなのだが、世の医者の一面を垣間見ることとな
った。それまで、義兄には市内に一戸建ての住宅があったのだが、築年数が経
っていて、改修を思いたったことを機に、入院患者のために深夜でも駆けつけ
られるよう、病院の最上階を自宅にリフォームすることにしたのだった。
さて、その一部に作られた娯楽室とは、医者である義兄が、気の置けない仲
間達との談笑に使う場である。一見贅沢にも見えるこの部屋は、緊急患者のた
めに、盆正月以外は、「ちょっとそこいらのスナックで一杯」さえも許されな
い医者の唯一の気分転換の場であった。今では珍しくも無い大型テレビの置き
場所を考えながら、世の医者達も芸能人に似て、所得は羨ましいほど多いにし
ても、自由の利かない誠に窮屈な人種なのだと、つくづく実感したのだった。
その点、研究開発の名目で、ありとあらゆるものに興味を示し、見聞を広めな
くてはならない建築家とは、なんと自由で愉快な職業なんだろうか。
これで、収入さえ伴ってくれれば。やはり、世の中平等なのである。
(つづく)
