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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.48」
2004/6/29(不定期発行)
第7章 内装
3.床材の選択(1)
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 床材の選択(1)
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内装を決めていく際、床と壁は同時に考えて行くのがプロというもの。何か
人と変わったことを試みたい新進気鋭の建築家は例外だが、大方の設計士は床
と壁の材料を同時に頭の中に思い浮かべて、バランスをとるものだ。最初の間
はその組み合わせは無限でも、あれこれ思案している間に数種類に絞られてく
る。また、色彩も材料の選定に大きく影響してくる。私の場合は機能性を重視
して材料を決めているが、その時ほぼ色彩も見えている。
私の自邸の場合、床と壁のどちらを先に決めたか定かではないが、仕上げを
決める段階で、こんな会話があった。「全部畳敷きというのはどうかしら。」
どちらかというと和風好みの妻の提案だった。「冗談は止せよ」と言い放った
ものの、床を畳にした場合どんな壁が似合うのか考えてみた。
過去に行ったことのある温泉旅館のロビーあたりを思い起こしながら、全体が
京じゅらく壁というのも能が無いし、イタリアからの輸入材料であるシッタや
麻のクロスなどの壁材が日本建築の伝統の代表格でもある畳との組み合わせで、
果たしてまとまるものなのか。出来上がった空間をあれこれ脳裏に映し出しな
がら「ちょっとミスマッチだがおもしろいかも」と新進気鋭の建築家気分に浸
ってみた。
ある機会があって京都のお茶屋さんに行った時のこと。二次会で連れて行か
れた高級クラブは畳敷きのお座敷にジュータンが敷かれ、その上にソファーが
置かれていた。各国の大使館にも和洋折衷のインテリアがよく見られるが、そ
れによく似た雰囲気があり、それはそれで妙に落着く洒落た空間だった。しか
し、ちょっと待てよ、わが自邸のコンセプトは「ホテルのようなー」ではなか
ったか。全部畳もユニークだが、そうした場合当初のイメージが根本から覆っ
てしまう。我に返って妻の意見はやんわり無視することにした。
最初はやはりフローリングだった。このところ住宅の設計を依頼されて、施
主に「床は何が希望ですか。」と問えば、第一声は決まって「フローリング」
となる。今や畳に代わる床材の代表格とも言うべきこのフローリング信奉はい
つ頃から始まったのだろうか。思えば、今から40年も前に建てられた私の実家
も、廊下は確かにヒノキの無垢板張りになっていた。
新築当時、小学生の私は毎日のように米ぬか入りの枕のような袋を雑巾代わり
に、この廊下を何回も往復させられた。その甲斐あって、現在でも年に一度の
里帰りの際、光沢さえ残る立派な廊下にご対面できるのは感慨深い。我々兄弟
がそろって東京の大学に進学してから、飼いはじめた座敷犬の小便の跡さえな
ければ、いつか解体の折は銘木として保存したいくらいだ。
さて、それを思うとフローリングの歴史は以外に古いのだが、どうも最近の
フローリングは、美しい木目の薄くスライスした木が合板に貼り付けてあるも
のが支流で、これについて言えば、せいぜい三十年の歴史があるかないか。
こうした貼りものの合板をツキ板と呼ぶ。たとえばローズウッドのように今で
は保護のため伐採禁止になったような貴重な銘木を薄くスライスし、家具や壁
に張るまでは我慢できても、これを床板に使うとなると、どうしても「おっと
大丈夫かい」と躊躇すること度々。
この表面材は厚いものでも2ミリ、平均0.5ミリという事実を施主たちは知っ
ているのだろうか。乾燥するにしたがって、反りや収縮があらわれる無垢のフ
ローリングの欠点をカバーする長所があるといっても、これではベニヤに紙が
貼ってあるのも同然だ。しかもこの紙を補強する為に「傷がつきにくい」とい
う実にもっともらしい理由をつけてカチカチの塗装を施してあるものが多い。
これでは板の上で生活しているというより、化学塗料の上を歩いている事にな
りはしないか。
効率性と経済性を重んじるばかり、どうも陳腐な文化に慣れ親しんでいく我
国の現状に失望しながらも、ひとり孤軍奮闘中の私であるが、同じフローリン
グでもヨーロッパからの輸入品の中には惚れ惚れするものがある。特にイタリ
アとドイツからのものは、合板に貼ってある化粧のための表面の美しい木が平
均4ミリもある。聞いた話だが、ヨーロッパのフローリングが厚いのは、土足
で使用することと、リフォームの際全体を削ってきれいにする習慣があるから、
この厚みが無いとすぐに下地のベニヤが顔を出してしまうのだそうだ。日本で
は、そんなことが起こる前に、つまり30年も経たない内に解体されてしまうか
らこれでよいと聞いたことがあるが何とも淋しい話ではないか。
こうした欧州からの輸入品を知ってしまうと、とても国産のフローリングを
採用する気持ちにはなれない。「知ったらおしまい」なのである。なかでもな
んともカタログから色気さえただよう、ウォールナットの幅広のフローリング
は、目を閉じて、その上を歩いている自分を想像するだけで体が溶けていきそ
うだった。しかし、これらの輸入品は、中間マージンと国内で在庫しておく経
費が上積みされて、すこぶる割高であった。「自分で直接輸入すれば?」妻が
こともなげに言う。
以前、イタリアへ旅行した際、すばらしい家具を見つけて、当時設計してい
た施主に提案したことがある。施主の「おまかせします」にいきがって即、日
本へ送るよう店主に告げた。船便で運ばれてくるのを待つこと3ヶ月。受取の
税関の書類はさっぱりわからず、とうとうネをあげて業者に代行を頼んだ。予
定外の出費ン万円。ところが、組立の段階になって部品の一部が不足していた。
さんざんFAXで不備を訴え、部品を待つことまた3ヶ月・・。相手の不備な
のに、なぜか税関で払ったお金ン十万円。イ、イタ公のやつ・・。施主から預
かったお金では到底足りなかった。
我が家では、先に年寄りと子供にいいということで、床暖房を決めていたこ
ともあり、ムク材の部分が厚い物は避けた方が無難というメーカーの説明もふ
まえ、輸入品は泣く泣く諦めることにした。いつか、イタ公に借りを返してや
る・・とひとりつぶやいた。
さて、同じフローリングでも、材質が竹で出来ているものがあると知ってサ
ンプルを取り寄せてみたものの、竹が有する本来の姿が曲げられているようで
もあり、あえて採用する理由が見つからない。そのうち、ふと十年前に手掛け
た札幌アーサーホテルのロビーに敷いたタイル状のフローリングを思い出した。
おそらくアフリカ産と思われる黒檀に似た固い木を3センチ角のサイコロ状に
して床に敷き並べるものだ。
フランス人デザイナーが提案してきたものだったが、私にはとても新鮮な素材
に見えた。何としても採用に漕ぎ着けたくて、当時の輸入業者をしらみつぶし
にあたった想い出がある。「もしかして、まだ扱っているのではないか。」記
憶を頼りに問い合わせてみたが、案の定廃番になっていた。この国では良いも
のでも、手間がかかるものや高価なものは次々に消えていく。
(つづく)
