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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.49」
2004/9/16(不定期発行)
第7章 内装
3.床材の選択(2)
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 床材の選択(2)
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住宅の設計を始めて間もない頃、コルクタイルに興味をもって、業界NO.1の
存在である千代田コルクのショールームを訪れたことがある。東京駅に程近く、
大通りに面してはいるものの、垢抜けない古いビルの1階にそれはあった。そ
れまで建築雑誌の広告欄から想像していた会社とは別物の、妙に質素な事務所
兼ショールームがそこにはあった。
聞くに、この会社では、カタログの請求があって、その後品番指定によって発
注される場合が大半で、わざわざショールームまで来る客はほとんど居ないら
しい。どおりでカタログが立派なわけだ。そうこうしているうちに、白髪の小
柄な紳士が現れた。矢下社長だった。名刺交換のあと、何を話したかはあまり
覚えていないが、「二流品が出回って困っている。」ということと「浴室用コ
ルクが特にお勧めだ。」との2つの言葉は今でも記憶に残っている。直接販売
はしないとのことで、比較的安くコルクタイルを施工するためにSという代理
店を紹介してもらって帰った。
ところで、具体的に床を何にするか、最初に決断したのは子供部屋の床だっ
た。子供は床にペタンと座る。その様子を思い浮かべていると、フローリング
だとちょっと痛そうな感じがした。それに木の床でも冬場は冷たそうだ。カー
ペットは衛生上相応しくないことから、ここでコルクタイルが一躍踊り出るこ
とになった。これなら子供部屋としての機能面はほぼ満足できる。
実際、子供部屋に貼られたコルクはそのまま廊下に出て、隣の我々の寝室に延
びてきた。しかし、寝室の機能から考えてもこれを否定する要素は見つからな
い。親子4人が川の字で眠るスタイルは当分続きそうなので、ベッドがふたつ
並べば床はほとんど見えなくなる。意匠的にもそれほどこだわる場所でもなか
った。「まぁ、同じコルクでいいか。」
こうして確固たる存在を築いたコルクタイルは、長い廊下を這いながら途中
のトイレをも侵略する。コルクの特徴の一つは、水に強いことだ。もし、子供
のオシッコで汚れれば一枚だけ簡単に貼り替えがきく。もしかしたら理想的な
素材かもしれない。ついでに、隣の洗面室も同じ水に強いという機能が求めら
れることから文句無く右に習えとなった。
有頂天になったコルクタイルは、遂に我が家のメイン会場たるリビング、ダ
イニングにまで押し寄せてきた。さあ、ここで、さすがに迷うことになる。こ
こは、さしずめホテルで言うパブリック空間。このあと様々な人が訪れる開か
れた場だ。したがって、ここだけは安易な妥協は出来ない。後に誰から問われ
ても毅然として理論武装をしていないと建築家の自邸としては許されるはずも
ない。私のこぶしに力がこもった。
リビング、ダイニングの床材として、最後の候補には畳とフローリングが残っ
ていたが、ここだけ材料を変えることにやや抵抗も感じ始めていた。機能性ば
かりに気をとられ、いくつもの材料を床に使用するのは、かえって野暮な感じ
がしたのだった。『全部コルクタイル』という安易さを躊躇するというよりも、
逆に「潔よくないではないか」という気がしてきたのだ。
その時である。「コルクって掃除が楽そう・・」妻のこの一言でついに最終決
定が下された。家づくりの主体はやはり主婦なのだ。「あっ、そう・・じゃあ
それでいいか。」私の握りしめたこぶしは、力を解かれ、だらりと下がった。
こんな経緯で我が家の主要な床材は厚さ5ミリのコルクタイルに決まった。
何故メーカーが推奨する厚さ7ミリではないのか。理由は簡単。予算が許さな
かったからだ。そのかわり、表面仕上げは、ワックス焼きこみよりやや高価な
強化ウレタンが塗布してあるものにした。前者の方がマットな風合はよいのだ
が、如何せん滑る・・。どこかの住宅で、屋内で飼っている小型犬が、ツメを
たてて滑らないように歩くのは、見てても気の毒だった。これに比べ、後者は、
表面にツヤがありすぎる感は否めないが、断然滑り難い。ツヤは徐々に落ちて
いくだろう。
その後コルクタイルの床で生活して実感したことを記しておきたい。まず、
「予想どうり掃除は楽である。」と妻でなく、婆ちゃん(私の母親)は言って
いる。コルクの表情にムラがあるせいか汚れも目立ちにくい。表面が平滑なの
ですっと拭けて清潔感もある。足ざわりもよく、冬暖かく感じ、逆に夏はひん
やりして、特に素足が心地よい。
難点と言えば、すぐに日に焼けて、色が薄くなっていくことである。直射日
光に当たる所は、それが特に顕著のようだ。「クリ色がミカン色になっていく」
と説明したら分かり易いか。見本帳のサンプルで見る限り、一般的に、濃い色
の方が高級感があり単価も高い。しかし、僅かな間にその色が飛んでしまうの
はいただけない。
我が家の場合、ほんの数年でなんとも情けない色になってきている。きっとこ
のままでは、あと数年でワインの栓の色に戻ってしまうだろうと危惧している。
聞くに、このコルクタイルはポルトガル産だという。市場に出て何十年も経つ
のに着色技術は一向に進歩していないようだ。これもお国柄か。最大手の千代
田コルクあたりで技術革新をして、是非この弱点を克服してもらいたいもので
ある。
廊下からリビングに入るワンクッションの意味で、四帖程度のホールを作っ
た。最初はリビングにつづく和室の予定だったが、平面図で見るとこの家のほ
ぼ中心で、階段を登りきってちょっと一息の位置にあるので、とくに意味のな
い、ふっと気が抜けるあいまいな空間にしてみることにした。主な機能は通り
道なので、ここだけアクセントのつもりで大理石を敷いてみた。最近流行のラ
イムストーンである。オフホワイトの色調で、控えめなのがいい。
結果的には予想以上の効果をもたらした。竣工後は季節感のある飾りつけの
場として、和室の床の間に近い機能も果たしている。トップライトからの光が
燦燦と降り注ぎ、天井が高いことを生かして、巨大な観葉植物が鎮座する我が
家の癒しの空間となった。ここに、床のライムストーンがよく似合っている。
が、冬場は、そこを通ると、飛び上がらんばかりに冷たい。その昔、お金持ち
の家の床は大理石と相場が決まっていたが、実際は皆んなこんな思いをしてい
たのかと想像すると笑えてきた。
ところで、最近婆ちゃんがこのホールでよく這い蹲っている光景を目にする。
床を雑巾で拭いているのだ。時々観葉植物に水をやると、こぼれた水がすぐに
シミになって残る。そのシミを乾拭きの要領でせっせと磨いているのだった。
これでは確かにお金持ちの家の床にしか使えないはずだと実感した。這い蹲っ
た婆ちゃんの脇を、長男のケイスケがジュースを入れたコップをもって走り去
る。「走ったらあかんでねえ・・」と名古屋弁で叫ぶ婆ちゃんの膝元には、す
でに点々と果汁の跡が。
(つづく)
