床暖房とトップライト(1) - 設備の大切さ - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

床暖房とトップライト(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.57」

  2005/3/21(不定期発行)

  第8章 設備の大切さ

   3.床暖房とトップライト(1)

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 3.床暖房とトップライト(1)


 「可児さん、いやぁ、床暖は快適ですね。」と以前に注文住宅の設計を担当
した施主さんから聞いていたこともあり、床暖房設備の採用は設計の最初から
決めていた。これまで住んでいた古家は、築三十年以上ということもあって、
電気のコンセントやガスカランなどの設備が不十分で、暖房はもっぱら石油ス
トーブに頼っていた。

その灯油の補給には、あのドクター中松先生発案の大きなスポイトのようなも
のを使用するわけだが、どんなに注意を払ってもその都度手は汚れ、勝手口の
床にも灯油がこぼれる始末。石油ストーブからピーピーと灯油補給を催促する
ブザーが流れると、どんなにおもしろいTVを見ていても、一瞬空気がとまる。
そして、「誰が補給する・・・」と言葉にならない重い空気が漂うのだ。これ
には、ほとほと手を焼いていたので、新居になったら絶対石油ストーブは使わ
ないと公言していたほどだ。

 これまでの古家では一階が主な生活エリアだったが、今度は三階が住居部分
になるので、とうてい灯油を運ぶことはできない。かと言って、エアコンのあ
の生暖かい風に頬を撫ぜられる気持ち悪さだけは、ホテルの設計を長年続けて
いる私にとってトラウマ状態にある。空気の乾燥を和らげようと、バスタオル
に熱湯をたっぷり浸し、吊す場所を探し廻る光景は、ホテルの一室では許され
ても、新居では想像さえしたくない。そんな理由から、暖房の理想形として床
暖房が選択されたのは自然の成り行きでもあった。

 ちょうど自邸の工事が始まる頃、私の事務所に妻の妹の英子が出入りしてい
た。アルバイトと言うよりは、お手伝いを頼んだという具合だった。不思議な
ことに仕事の依頼は意外と重なるもの。当時、名古屋の大きなホテルの仕事の
他に数件の設計を抱え、それに自邸の工事が始まる。だからと言って、新たに
社員を募集するほどのことでもない。そこで、ほんのここ数年間の助っ人とし
ては好都合だった。

この妹、現在は私の古家から歩いて数分の所に住んでいる。私の妻の佳子とは
幼い頃から仲のよい姉妹だったようで、会う度に「私、姉ちゃんの隣に住んで
、洋服ダンスを共有するの。」と冗談交じりに夢を語っていた。それが数年前
、本当に勤務先の仙台の社宅から引っ越してきたのだから驚いた。同じ町内に
ボロボロの古家の売り物が出たのもタイミングが良かったが、買い手として二
番手だったにもかかわらず、売主の所に直談判に行って、泣き落としの術で見
事に先約者を押し退け、手中にしてしまうなんぞ、姉妹そろって九州女の底力
を垣間見た気がした。

 ところで、縁もゆかりも無い場所に突然連れてこられた当のご主人は、とい
うと実は夜討ち朝駆けの政治記者さんで、そんな私的な事情にはとても構って
いられない状態だった。久々に顔を見た時「義兄さん、僕はとりあえず寝る場
所さえあればどこでもいいんです。」そう言い放った彼は、業界では「総理番
」と呼ばれ、時の総理大臣に四六時中ピッタリくっついて、その言動を大手新
聞社をはじめ各報道機関に発表する超ハードな要職にあった。普段はめったに
お目にかからないが、時々ニュース番組などで、総理の脇を歩く姿を目撃する
のだった。

 そんな彼は若い頃、水泳と合気道で鍛えた堂々たる体格を有し、「総理大臣
のボディーガードを兼ねているんじゃないの。」と英子に冗談を言ってみるの
だが、そのうち我が町内の早起き婆さん達の間で「この辺りに青年実業家が住
んでいる。」とのうわさが広まった。理由を探ってみるに、早朝の表通りに、
黒塗りのハイヤーが止まっているのが時々目撃されるからだった。

「午前さま」で帰宅した彼は、数時間の睡眠のあと再びダークスーツに身を包
み、運転手と軽く挨拶を交わしてから、おもむろに総理官邸に向かうのだった
。確かまだ彼は三十代。ちょっとカッコ余過ぎるではないの。確かに青年実業
家に間違われても仕方ないのだが、それにしては、傾きかけた古家がそぐわな
い。もちろん彼女はこの古家を私の設計で建て替えるつもりでいる。「十年我
慢して貯金するの。」が口癖だった。

人間、目標があるとより励みになるもの。「自分が家を建てる時の参考になれ
ば一石二鳥」と考えたのだろう、彼女はよく動いてくれて助かった。当社の実
質的な社長は私の妻であることは前述したとおりだが、その実の妹なのだから
、「あ、うん」の呼吸は当然でもあった。

 ある日、その彼女に床暖房を研究してくれるよう頼んでおいた。もちろん、
自分の関心事でもあるので動きは早かった。結論は「床暖の面積が多い場合は
、やっぱりガスがいいんじゃない。」だった。「ガスの床暖は、設置費はやや
高いが燃費がよく、毎月のランニングコストが電気よりずいぶん安い。」らし
い。

住居部分に限らず、事務所の応接室と作業場にも床暖を施工しようと考えてい
た私は、彼女の「床暖パネル自体は枚数が増えても意外と安いもの。ガスの場
合、熱源機は一台でよく、その容量をアップするだけで済み経済的。」という
明快な理論に傾いた。おりしもテレビでは東京ガスの床暖房のCMが流されて
いた。「やっぱりガスですね。」あの田村正和の舌っ足らずの甘い声は、中年
の女性ならずとも、おじさん(この私)の心をも溶かす効果があり、駄目押し
の感があった。

 これまで設計した住宅の中には、給湯器の異常や水漏れなどが意外と多かっ
た。引渡し後も全ての施主と懇意にしていることもあって、不具合は直接私に
連絡がある。その度に施工した工事会社に出動を要請するのだが、この対応が
意外と遅い。二、三年の間仕事上の付き合いが無い場合など、職人の都合を理
由になかなか出向いてくれず困った。

最初のうちは、この私が怠慢なような印象を与えてしまうので、思い悩んだ。
現在の薄毛の理由は、遺伝だけでも無いのである。でも真面目に働く者を神は
見捨てない。ある時、給湯器を直接東京ガスから購入することになって、とて
も楽になった。さすがに大手で、こうした故障にも24時間体制で対応してくれ
るのだ。このことも、都市ガスを熱源とする床暖房に決定した大きな理由だっ
た。

(つづく)

 
 
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