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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.61」
2005/5/31(不定期発行)
第8章 設備の大切さ
4.浴室(1)
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 4.浴室(1)
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自邸では、三階に浴室を置くことになるので、もちろん最初はユニットバス
を考えた。木造ゆえに、柱や梁の乾燥によって多少ではあるが、将来骨組みが
変形するリスクがあるからだ。それが原因で防水層が切れて、漏水する危険性
を考えれば、ユニットが安全に決まっている。ここはひとつユニットバスを前
提に、市販のものをどこまで改良できるか追求してみようと考えた。私はこれ
までのホテルの仕事で、何度となく大手衛生器具メーカーとこの分野で改良を
重ねてきた経験があるからだ。
元来、高級なホテルではユニットバスの工業製品らしさを嫌う傾向にあり、
あえて洗面カウンターに大理石を使ったり、壁に大型タイルを貼ったりして、
見た目には現場で作る在来工法と何ら変わらないように工夫を凝らしている。
一般の利用者は、そこまで気が付かないだろうが、私は職業柄ホテルを利用す
る度に、塩ビの防水パンをいかに隠しているかで、このホテルの設計者の技量
を計ってしまう。この辺りがうまく処理されていれば、きっと他の部分もよく
考えてあるからだ。
ところで、漏水の危険が少ないユニットバスは、その宿命として、大量生産
を前提としているので、個別の対応にはあらゆる面で適さない。つまり、個人
の住宅での勝手な寸法やデザイン面での要望には適応できないことになる。し
たがって、一般的な住宅では、誰もが仕方なく数社のユニットバスメーカーの
カタログの中から適当な機種を選び出し、さらに値段と相談しながら後部に載
っているオプションのぺージから床、壁、天井の色などを選択して、「ハイ、
発注」となるのが実情だ。
たしかに最近の住宅用ユニットバスは、性能面ではよくできている。作る側
に立てば、日本全国津々浦々、老若男女の万人に快適且つ安全なものでなくて
はならない。各メーカーの開発チームは、このことを念頭に日々努力を続けて
いるのだろう。しかし如何せん、いかにも工業製品らしい意匠が私には気に掛
かる。
しかもバリアフリーの名目で、バスタブに妙な曲線を付けてみたり、偽りの大
理石風壁パネルを採用したりと、差別化のために「これでもか」という意図が
見えすぎる。どうしてもっと自然でシンプルな形に落ち着かないのだろうかと
素朴な疑問が湧いてくる。一言で表すと「大人のデザイン」とでも言えようか。
最近では、多少センスアップしたものも登場しているが、「まあ、いいんじな
いの」と許せるものは、半端でなく高額と相場が決まっている。
そんな理由から、私はユニットバスを諦めて、将来のメンテナンスを覚悟し
ながら、一品生産品、つまり在来工法による浴室作りに挑戦することにした。
まず最初のポイントは、防水層をどうするかだ。万一漏水でもしたら「さあ大
変」。その階下は貴重な収入源のアパートになっているからだ。この万が一の
際、あの妻の血相を変えた怒り顔を想像したら思わず身震いがした。
「一級建築士もなんもあるもんね。いったい、どうすんのよ。」きっと、こう
くるに違いない。やや躊躇したが、結論としてはFRP防水を採用した。分か
りやすい例としては、実はヨットがこれで出来ている。つまり、ヨットの中に
お風呂を作ろうという具合だ。屋外のバルコニーの床にもこれを採用すること
が多いが、この場合七、八年でメンテが必要になる。しかし、今回は温度変化
や紫外線による影響が少ない分、長期的に安全だと判断した。
次に湿気対策を考える。木造はとにかく水に弱い。しかし、逆にこれさえ注
意すれば、法隆寺のように鉄筋コンクリートより長持ちするようだから、念に
は念を入れることにした。資料を探してみると、浴室用の防水シートなるもの
が、ちゃんと市販されていた。日本人は実にエライ。細部に至るまで、誰かが
極めている。感激ついでに「ここは大事」と奮発して、最上級の厚さ2ミリの
ものを注文してしまったまでは良かったが、後で来た請求書を見て驚いた。予
想3倍もしたからだ。なんと軽薄な決断力かと自分でも呆れた。
さて、この後はモルタルで下地を作って、タイルを貼る工程となる。その頃
現場では「先生、なるべく軽くしましょうよ。」とタイル職人の藤成さんが心
配顔だった。理由を聞くと、彼は壁のタイル貼りの前に、浴槽を設置すること
になっていた。そこで先日、現場に届いた浴槽の梱包を移動させ、腰を痛めた
らしい。
ここ数年の間で主役に踊り出た人工大理石の浴槽ならば、二人で楽々移動で
きよう。ところが今回のホーロー製は想像を絶する重さらしい。二人ではビク
ともしない。そこで棟梁の清水さんも見かねて職人衆全員に声を掛け、やっと
三階までずり上げたらしい。
「先生、これだけ浴槽が重くては、水が入ったら危ないですよ。」なるほど
と思われる助言だった。彼は続ける。「これにタイルの重さが加わるわけでし
ょ。なるべく軽いモルタルを使いましょうよ。」実にありがたい助言だった。
実際、浴槽を固定するためと、タイル貼りの下地を作ること、さらに洗い場の
床を仕上げるために、今後相当量のモルタルを使う。そもそも彼の経験によれ
ば、本来、浴室は一階の土間の上に作られる。それが私の設計では、約半数が
二階に配置され、いつもハラハラさせられているらしい。しかも今回はなんと
木造の三階である。「オラ知らねぇ」と言いたげだった。
それを受けて私の主張はこうだ。第一に木の柱は、垂直荷重には想像以上に
強いことを私は知っている。しかも今回は木造の3階建てのため、確認申請時
に構造計算を義務付けられている。計算値では浴槽にいっぱいお湯を貯めても
床が抜けることは断じて無い。だが、実際あのホーロー製の浴槽の重さは半端
ではなかった。調べてみると、なんと140㎏もある。断言はしたものの、次の
日「なるべく軽いモルタルを使ってね。」と藤成さんに念を押しておいた。
(つづく)
