浴室(2) - 設備の大切さ - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

浴室(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.62」

  2005/6/22(不定期発行)

  第8章 設備の大切さ

   4.浴室(2)

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.浴室(2)


 在来工法、つまり現場作りの浴室だから、内装としてはタイル貼りが最も無
難に思えた。もちろん、ガラスやヒノキの板など、その他のおもしろい素材も
考えられたが、水が流れ湿気も多いことから、敢えて冒険するのも不自然に感
じられた。それに加え、タイルのトップメーカーのイナックスが、私の出身地
に近い愛知県下にあることで、なんとなく郷土愛も芽生えていた。名古屋弁で
言うと「やっぱり、たゃぁる(タイル)使ったろみゃぁか(使ってあげようじ
ゃないか)。」となる。

 数日後、具体的にタイルを選定する為に、新宿にあるイナックスのショール
ームに出かけてみた。実はこのショールーム、訪問はこれが初めてではない。
それどころか、むしろ常連の域に達っしている。理由は、やはりカタログでは
微妙な色合いや素材感が掴めないし、偶然だろうが、私が選択するものが何故
かきまって廃番になっていく妙な傾向にあり、面倒だから各プロジェクトごと
に、ここで直接在庫を確認した上で決定することにしているからだ。

これまでのホテル建築の経験からは、浴室の壁には200角のタイルが優等生とい
える。施工の効率もさることながら、貼り終わった時、そのタイルの大きさが
高級感を醸しだすからだ。これが100角や150角だとやはり日常的すぎる。
思い切って50角や25角のモザイクタイルも面白いと思ったが、その分目地
が増えて、後日カビと格闘することになるだろう婆ちゃんの姿を思い浮かべ、
親孝行な私はすぐに諦めた。

余談だが、浴室のカビは最初、かわいいピンク色で登場するらしい。この段階
ですぐに拭い取れば楽なのだが、そのまま気付かずに放置しておくと、黒く変
身してガンコ者と化し落ち難くなるという。なんとなく人間様にも通じるよう
な・・あんなにかわいかった筈のピンク色の娘さんが、いつの間に・・。あぁ、
この先はやめておこう。

 そして翌日のこと。「先生のご自宅ですって」イナックスの営業から突然電
話があった。「精一杯お安くします。お好きなものを選んでください。」とき
た。これまたうれしい役得である。さすがに「えっ、タダじゃないの。」とは
言えなかったが、お言葉に甘えて私が最終的に選んだのは300角の御影石風のタ
イルだった。

数年前、ロスにある著名なインテリアデザイン事務所のデザイナーといっしょ
に仕事をした時、「やっぱりこれしかないよね。」と意気統合し、インターコ
ンチネンタルホテルのスウィートに使用したものだった。このタイル、カタロ
グの最後に今にも廃番になりそうに掲載されている。厚くて施工は決して楽で
はないが、御影石に近い重厚さが気に入っていた。色合いは暖色系のグレー。
貼り終わった後もホーロー浴槽の純白をいっそう際立たせていて正解だったと
思った。

 床は実験的にコルクタイルとした。このいきさつは以前、床の項で書いたが、
これは確かに大正解だった。滑らず冷たくないので、家族にもすこぶる好評で
ある。引っ越した当時、長男のケイスケが浴槽の中でふざけて、何回も洗い場
の床に頭から転げ落ちた。その度に「ああ、コルクで良かった。」と千代田コ
ルクの社長に感謝したものだった。

ケイスケといえば、もうひとつ冷や汗をかいた事がある。ホテルらしさを狙っ
て、浴室のドアを枠の無い強化ガラスとした。このドアは専用のガラス丁番を
使用する。実はこれを開いた時、吊元の側に僅かな隙間ができる。出入り口の
反対側だから気にもしなかったが、何と面白がって、わざとここに手を突っ込
むのだ。そのままドアが閉まれば、テコの原理で指が相当の力で圧迫される。

想像したら背筋が凍った。慌てて隙間をふさぐ部品を捜し求めたら、ちゃんと
東急ハンズに売っていた。黒いブチルゴムがくっついたビニール製のジャバラ
で、デザイン的には台無しになったが、ムスコの指には代えられなかった。

 住宅では、床の段差は重要な課題。自邸では、極力と言うか、まったく段差
を無くする設計としたが、脱衣室と浴室内部との差をどれだけ確保するかは迷
った。最近ホテルでは、バリアフリーの考え方が浸透し、ここもほとんど段差
をつけない場合が多い。ヨーロッパを旅して分かるが、西欧ではバスタブの外
で体を洗う習慣が無いようで、ましてホテルでは床にザアザアお湯を流したり
することは無く、したがって、出入り口の扉の下にも段差がまったく無い。

しかしここは日本、しかも我が家にはケイスケがいる。満杯の浴槽にわざと頭
から飛び込むことは目に見えていた。一度に大量のお湯が床に広がるに違いな
い。脱衣室との間に段差が無いと大変なことになる。10センチも確保すれば安
心なのだが、それでは床の段差を無くするコンセプトが崩れる。

敢えて断言すると「建築家はコンセプトに命を賭ける。らしい。」何とアホな
人種と苦笑もするが、ここで安易な妥協もできない。かと言って、微妙な段差
はつまずきの原因になる。悩んだ結果、冒険を覚悟で段差を20ミリとした。こ
れは、今までのホテルの設計の経験から、万一お湯があふれて浴室の床に広が
っても、脱衣室まで到達しないだろうと想定される限界値だった。


(つづく)

 
 
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