浴室(3) - 設備の大切さ - SE構法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

浴室(3)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.63」

  2005/7/3(不定期発行)

  第8章 設備の大切さ

   4.浴室(3)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.浴室(3)


 とにかく最近「何でも有り」の日本で、お風呂について言えば、追い炊き機
能が常識になってきている。浴槽に穴を開け、給湯器とパイプで結んで、冷め
たお湯を再加熱して戻す仕組みだ。こんな装置が普及するのは、きっと日本だ
けだろうとマジで思うが、最近になって住宅の設計を依頼される場合、必ずと
言ってよいほど施主からの要望事項に書き添えてある。

ところが我が自邸では、この私の頑固なまでの執着で、これを拒否したのだっ
た。理由はその昔、生まれ育った実家で、この循環パイプから黒いワカメのよ
うな代物がよく排出された記憶があるからだ。それにいくら家族であっても、
何人も同じお湯に浸かるわけで、その汚れたお湯を循環してまで使用するのは
どうも生理的に受け付けない。

そもそも私は長くホテルの設計を続けてきたおかげで、ホテルの浴室のイメー
ジが強く、「お湯は足そうよ。日本は水道代そんなに高くないし、コンセプト
はホテルのような家づくりだろ。」と妙な屁理屈で妻を説得したのだった。し
かし、今にして思えば、最近の循環式給湯器は随分性能も向上し、当然ワカメ
対策もしてあるだろうから、そんなにムキになって拒否する必要も無かったか
もしれない。

我が家の場合は、ホーロー浴槽のため意外に早くお湯が冷める。こんな時は、
壁の給湯器のリモコンに手をのばし、ピピッと温度を60度に上げ、注ぎ湯をす
る。ちょっと凝ったデッキ水栓から出た熱いお湯が攪拌する手のひらにまとわ
りつき、浴槽の淵に表面張力の限界を超えた湯がツーと床に落ちはじめるのを
見るとなんともぜいたくな気分に浸ることができる。

さらに「何でも有り」の日本では、これまた最近、浴室暖房乾燥機が話題にな
ってきている。マンションの浴室のように、窓が確保されない空間では、換気
扇を連続運転しても湿気が完全に取れないので、その対策かと思いきや以外に
目的は別のところにあった。都心の住宅密集地や集合住宅で、外に大手を振っ
て洗濯物を干せない状況下、浴室を洗濯物干し場として活用するための必需品
として重宝されているらしい。

特に最近新築される戸建て住宅では、ユニットバスが主流になり、従来の在来
工法によるタイル貼りの浴室よりも随分暖かくなったものの、1階の、それも
北側に位置する場合など、冬場は凍えるように寒いらしい。高齢化時代を迎え
つつある現在、裸になる空間こそ暖房が求められ始めたのは自然の成り行きか
もしれない。この一石二鳥を狙ったのがこの浴室暖房乾燥機なのである。売れ
ないはずが無い。

さて、この優れモノ、我が家でも「住宅設備機器は最新のものを」とのコンセ
プトのもと、早速導入することになった。換気用の窓も取ってあるし、立派な
洗濯物干し場も確保できていたので、目的は冬場の寒さ対策のためだけだった。
年寄は温度差が命とりにもなるというではないか。

竣工したのが春先だったため、この暖房機能が実際に試されることになるのは
その年の暮れ、ほぼ十ヶ月後のことだった。まず、浴室の乾燥に関しては、最
後に入浴した者が、浴室内のルーバー式の窓を少しだけ開けて出る。この時浴
室のドアは開けておく。

さらに、洗面脱衣室にあるもうひとつのルーバー窓を少しだけ開けて、廊下に
出る。そこで、洗面室の引き戸は一応閉めておく。いつしかこうしたルールが
できていた。すると「アラ不思議」。ほんの一時間もすると、浴室全体から湿
気がすっかり逃げているではないの。乾燥機ならぬただの換気扇機能も、自然
換気でまったく不要となった。

次に暖房機能。これがその年の暮れになっても、家族の誰もスイッチを入れよ
うとしない。位置は北側にあるものの、三階の浴室は予想以上に暖かかったの
である。乾燥機としてはもちろん、換気扇としても使用しない。さらに、期待
した暖房機能もまったく必要としない。

それでも一度も使用しないのでは勿体ないと、妻は真冬の一時期、娘のタカコ
が入る時だけに暖房機能を作動させることがある。確かに温風らしきものが激
しく壁に当たって跳ね返ってくるが、タイル面がすばやく熱を吸い取ってしま
うのだろうか、あまり体感として暖かいという実感は無い。

婆ちゃんにいたっては「まぁ、寒いでいかん」とすぐさまスイッチを切ってし
まった。確かに温風だが、風は風。年寄りの皮膚から、容赦なく体温をうばっ
てしまうらしい。つまり結果として、この浴室暖房乾燥機はなんと我が家では
「無用の長物」だったのである。

 最後に、広さについて考えると、我が家の場合は浴槽がやや大きいこともあ
って、一般的な一坪の大きさより、幅、奥行き共にやや広くした。ユニットバ
スのサイズに換算すると1620に匹敵する。引っ越して以来、二人の子供のどち
らかを誘って毎日のように入浴を続けているが、ひとり半でちょうど良い大き
さのようだ。

これ以上広い場合を想像してみても、冬場はちょっと寒かったかもしれない。
それは広いに越したことも無いのだろうが、トイレ同様、基本的にひとりで使
用する所だから、温泉旅館のような広い風呂にひとりポツンとは、いささか寂
しい感もある。仮に豪邸であっても、適当な広さというものはあるのではない
だろうか。

 さて、この浴室について、もう一度設計し直すとしたらどうするか。家族皆
に聞いてみても以外に不満はないようだ。しかし、数年後に娘の貴子に振られ、
自分ひとりで入浴することになることを想像すると、小ぶりの窓と均一なタイ
ルで囲まれた閉鎖的な空間はなんとも味気なく、思索に耽る以外方法が無い。
「そうか、窓の外に緑の置ける小さなベランダでも欲しかったなぁ。」ひと足
先に長男に振られた妻の佳子さんもまったく同感だった。

寒さを怖がるあまり、浴室内の窓は換気用に限定して小さくしたのだが、実際
には三階のせいか、窓からの冷気はまったく感じない。だったら目線まで立ち
上がった壁に囲まれた小さなベランダに、自分が好きなモミジや枝垂れ梅の鉢
植えをライトアップし、風になびく姿を眺めつつ、甘酸っぱい初恋の君なんぞ
思い出すのも悪くなかったかも。

ともあれ、狭い空間であるからこそ、視覚的に広がり持たせるテクニックとし
て、建築家であればこれくらいのことはさりげなく実現しておくべきだった。
今にして思えばちょっと残念に思う次第である。


(つづく)

 
 
SE構法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト 東京都渋谷区笹塚2-41-13