演出装置として - 建具とサッシ - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

演出装置として

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.67」

  2005/10/14(不定期発行)

  第9章 建具とサッシ

   3.演出装置として

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 3.演出装置として


我が自邸の上下関係を説明すると、まず玄関を入って靴を脱ぎ、三歩進むと
階段がある。そこを3段昇ると踊り場があり、更に11段昇って二階となる。
ここから私の事務所へも入れるが、家族が暮らす居住部分の三階へは、この後
7段昇って踊り場で一息ついてから、更にもう7段昇りきる。玄関を入ってか
ら階段を二つ一気に上るのは、さぞしんどいように思われるが、階段一段分の
高さを20センチ以下に抑えておいたことと、カーペット敷きなので意外と疲
れを感じない。

最近、都心部の住宅で三階建てが流行っているが、このような場合、決まって
居間や食堂のようなパブリックスペースは二階にある。したがって、玄関から
二層分の階段を一気に上って居住部分にたどり着く大胆な設計の我が家は、き
っと稀な存在だろう。

しかし、私もいつの間にかそう若くはなくなってきた。三階住居案に踏み切
った時、いつかは階段の上り下りがきつくなるだろうと覚悟は出来ていた。
「まあ、もしそんな歳まで長生きができたら儲けもの」と笑い飛ばすことにし
たが、もしもの時がきたら家庭用エレベーターを増設することで妻とは意見が
一致した。ただし、いくら緩い階段でも二つも続けば上り下りの際、単調で退
屈な時間となるに違いない。そこで、途中の踊り場あたりに何か楽しげな装置
を設けることにした。

あれこれ思案を巡らせて見たものの、建ペイ率に余裕が無いので、これ以上
床面積を広げることは許されない。しぶしぶ安易な出窓でお茶を濁すことにな
った。出窓は原則として建ペイ率にも容積率にもカウントされないので、大工
仕事の手間だけを覚悟すれば、ちょっとした演出空間が簡単に出来上がる。

一般的に出窓は室内の空間を広く見せるための工夫なのだが、今回は退屈しの
ぎの演出である。階段巾いっぱいに棚板を取りつけて、両サイドに窓、真中に
壁をこしらえて何か絵画のようなオブジェを置くことにした。でも厳密に言え
ば、窓の他に壁があることで、ちょっとした違反建築。役所の担当者によって
は改善を指示されることもある。まあそこのところは大人の判断を期待して。

さて、当然ここで忘れてはいけないのは、照明効果。ここを生かすも殺すも、
この照明で決まる。下の出窓には彫刻を、上の出窓には大きな書の額を飾るこ
とにしたが、これが予想以上に我が家の個性作りに貢献しているようだ。階段
の折り返し点にあるので、これらのアートが嫌でも目に入る。さらにここに照
明が当たると、本当に高貴なものに見えてくるからおもしろい。

上の出窓に掛けた額縁入りの書は、あのバブル時代にン十万円で購入した立派
な書家の作品だ。その数年後にバブルがはじけて、「なんて馬鹿な買い物をし
たのだろうか」と後悔しきりだったが、やっとここで生き返った。

下の出窓に置いた彫刻は、その昔、私の事務所が渋谷公園通りにあって、その
向かいの「タバコと塩の博物館」でインド物産展があった時、ランチのついで
に片言の英語を駆使しながら値切り倒して買った馬の置物。何か怪しい雰囲気
もあり、意外と現地では道端に転がっているような代物かもしれない。しかし、
見ようによっては素朴で、人の手で何日もかかって作っただろう苦労の後が偲
ばれて捨てがたく、これまで自宅の押入れの隅に眠っていたものだ。これも十
年越しに日の目を見ることになった。人生わからないものである。

最初の案では、階段を昇りきった正面は、妻の達っての願いで床の間を兼ね
た和室になる予定だった。しかし、二層の階段を一気に駆け上がると、きっと
家族の皆が一息つきたくなるだろうと思い直し、工事の途中で英断して、何で
もない廊下の続きのような、うつろな空間に変更することにした。あえて名づ
ければアルコーブまたはホールとでも呼べるのか。もちろん壁や天井の材料は
廊下と同じ。ただ、床はちょっとそこだけ違った雰囲気を出すために廊下とは
変えてみた。

廊下はコルクタイルになる予定だったので、床材を変えるのなら思い切って色
や素材を変えた方が、出来あがった印象が良いと思われた。これは以前ホテル
のインテリアから学んだこと。洋服などのファッションでも同じことが言える
ようだ。

ここが畳だったらきっと段差をつけただろうが、廊下の延長のような場所だか
ら、バリアフリーつまり段差なしとした方が良いに決っている。とすれば、仕
上げの材料は早急に決めなくては清水棟梁にまた叱られる。建築工事では屋根
の次に床の下地を最初に施工するからだ。仕上げの厚みが決らないと、下地の
高さ調整が出来なくなる。

では具体的には何が良いのか。そもそも妻が夢にまで見た床の間付きの和室で
ある。それを敢えて止めた貴重なスペースだ。多少値が貼っても存在感のある
素材が欲しい。一週間ほど考えたが、「ホテルのような家」がテーマだったこ
とから自然に答が出た。石だった。しかし、大理石のようなピカピカはもとも
と趣味ではない。ただ見た目に清潔感があり、温かみのあるものが良い。そこ
でライムストーンを採用することにした。色合いはオフホワイト。一応大理石
の中に分類されてはいるが、砂岩に似て冷たさを感じない。産地はヨーロッパ
辺りで、たとえばパリの街並みの大半がこれで出来ているらしい。比較的柔ら
かくて加工しやすいのが理由だと聞いている。

ここに更に遊びで、ガラスのモザイクタイルで縁取りをしてみた。専門的に
は「ボーダーをとる」と言うが、ホテルでは外人デザイナーがよく使う手法で
決して珍しくはない。このように小さなモザイクタイルを床や壁に使うデザイ
ンは、ヨーロッパ辺りでは伝統的なスタイルでもあるらしい。

もしこの自邸が建築雑誌に載ったら、誰かに少女趣味と批判されるかもしれな
いとふと思ったが、三歳になったタカコがここで遊ぶ姿を思い浮かべて、「い
いじゃないか、ちょっとカワイイアクセントをつけてやろう。」との親心が勝
った。その結果は?と言えば、やはり女性陣にすこぶる好評だった。使用した
ガラスモザイクが日光に反射して渋めの光沢を発し、硬い石の床に華やかな印
象さえ与えている。やはり、本能的に女性は光ものに弱いようだ。

こうして我が家の中心となる場が誕生した。後は演出次第で生きた空間となる
はずだ。ここには南からの光を求めて、畳二枚分の大きなハメ殺し窓を設けて
いた。階段を上りきると、ちょうど正面にこの大きな窓が見える。ここはひと
つ象徴的な意匠が欲しいのだが、遊びのために予算を出せるほど余裕はない。

話は変わるが、ちょうどこの頃、町内会の役員を引き受けさせられ困ってい
た。それまで名古屋をはじめ、全国いたる所への出張をネタに、断り続けてき
たのだが、遂に捕まった。「一年間で勘弁してくださいね。」としぶしぶ役員
会の集まりに出向いていた折、同じ町内に鉄骨の加工場があると聞いた。知っ
ておいて損はないので早速訪ねてみることにした。

京王線の高架の下にその加工場はあった。ははん、ここなら切断機の騒音も気
にならないだろうと納得した。だが、「ちょっと済みません。」と声を掛けた
直後、私は凍りついてしまった。作業員は二人だったが、振り向いたどちらも
が凄みのある顔つきだったからだ。「あ、あ、あのう、どちらの組の方で。」
と言ったかどうか。しばらくして我に帰った時は、とにかく図面を出せば見積
りをくれることになっていた。

さて、話を戻すと、階段を昇りきった正面の大きな窓は、なにか象徴的なデ
ザインとする必要がある。そこで思いついたのが、よく京都の寺院に見られる
丸窓である。この円形に切り取られた窓から庭を愛でる伝統的な手法だ。北鎌
倉は明月院の丸窓を通して眺める庭も感動的だった記憶がある。具体的には、
四角の窓はもう変更できないので、手前に大きな円をくり貫いたパネルを貼る
ことにした。そしてこのパネルの素材を鉄板とするアイデアを思いつき、あの
コワモテの小俣工業で見積もりを取ることにしたのだった。

簡単に図面を書いて送った数日後、返送された見積りは納得のものだった。
トンいくらと計算する鉄骨業界を知っている私には、薄っぺらな鉄板はやや割
安な感もあった。しかも製作にあたって、詳細な質問の電話があったが、それ
が何と丁寧なことか。人は見かけで判断してはいけないと悟った。それからと
いうもの、細かい仕事で恐縮だが、何かとご用達とさせていただいている。

 ところで、この鉄板、取り付けは自分でしなければならない。もちろん自分
では出来っこないので、清水棟梁にお願いすることにした。早速取りつけたパ
ネルのおかげで、ただの四角い窓が風情ある丸窓に変身し、最初から特注の丸
窓サッシを発注するよりずっと割安だった。「先生、なかなかいいじゃないで
すか。」清水棟梁も感心顔。正統派大工には経験のないユニークな方法だった
ようだ。

この鉄板にはベンガラ色の錆止めが塗ってあるが、そのままでは赤みが強すぎ
る。これでは窓の外の景色も、手前に置く予定の装飾品もこの赤に負けてしま
う。どうにかして自然の錆色にならないかと思案したが、残念ながらこの時は
東急ハンズにサビ色の塗料があることを知らなかった。そこでコゲ茶色のスプ
レーを購入して自分で吹き付けてしまった。しかし、以外にこのスプレー塗料
は難しい。すっかりムラが出来てしまい、体に震えを覚えた。これはヤバイ。

ところが意気消沈の私を横目に、妻のケイコさんは一目見て、「アラ、風情が
あってなかなかいいじゃない。」ときた。
「馬鹿言え、こんなのホテルじゃ許されないぞ。」
「馬鹿ねえ、このムラが味があっていいじゃないの。」
こうして馬鹿の応酬の末、季節ごとのしつらえが楽しめる、我が家の中心的な空
間が完成したのだった。これこそ現代版床の間である。ホッ。


(つづく)

 
 
SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト 東京都渋谷区笹塚2-41-13