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メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.69」
2005/11/18(不定期発行)
第9章 建具とサッシ
4.障子とすだれ(2)
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□ ご購読感謝
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みなさま、こんにちは。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
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■ 4.障子とすだれ(2)
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間に合わなかったのは建具だけではない。カーテンとブラインドもそうだっ
た。単に私の怠慢で発注が遅れただけなのだが、春は刻々と夜明けが早くなる。
なんと四月にもかかわらず、朝六時にはすっかり明るくなるのだ。知らなかっ
た。これまでの古家では、目覚めてから階段を降り、座卓に脛をぶつけながら
玄関のドアを開けないと、朝が明けたかどうか分からない状態だったから、新
居に移ってからは新鮮な驚きの連続だった。
異常に室内が暗かった古家の反動で、枕元も出窓に設計していたので、川の字
の四人組は毎日朝日が眩しく、目覚まし時計が鳴る以前に誰もが片目を開けて
いた。まだ朝六時半。「さあ、皆んな起きるのよ。」
長男の入学を目前に、家族の生活は一変した。特に夜型の私は、先週までより
3時間も早く目覚めなくてはならなくなった。しばらく抵抗を試みたものも、
この強烈な朝日の前には人間は無力だった。
緑の少ないこんな住宅地でも、六時前には小鳥のさえずりがはっきり聞こえた。
鳥の種類は分からないが、なんと心地よい響きなんだろう。
「よし、これを機会に朝方に体質改善しよう。」
何度もそう誓ったのだったが。
建具やカーテンが入った後も、朝方の習慣が定着したかどうかは想像にお任
せするとして、季節は移り秋が深まった深夜、
「ちょっと寒くないか?」
「そうねぇ、言われてみれば。」
何故か私は後頭部に冷気を感じて辺りを見回した。別に壁に穴が開いている訳
でもなく、不思議な感覚だった。
「おい、髪が薄くなったせいかなぁ?」
「私も感じるからそうじゃないわよ。きっと」
という訳で、明かりをつけて真相を探ることになった。
手のひらに当たる冷気を頼りに息を殺して見当をつけると、どうやらヘッドボ
ードに近い、出窓のサッシの下端から隙間風が入って来ている。ここにはブラ
インドが取り付けてあるが、それを通り越して冷気が進入しているようだ。
「はて、欠陥サッシか。」とも疑ってみたが、よくよくサッシの断面図を頭に
描いてみると、「ハハンなるほど」と直ぐに答えが出た。
普段はそんなにアルミサッシに近づいて生活していないから気に止まらない
が、引き違いのサッシは、そもそも電車のようにレールの上を動いている。つ
まり戸車の一点でレールと接しているのだから、ガラス戸自体はわずかにレー
ルから浮いていることになる。そこには確かに隙間が存在するわけだ。正体見
えたり。
ほんの数ミリの隙間から冬が忍び寄って来ていたのだ。それにしても建築畑に
居ると、自然には常々勉強させられる。だが、感心ばかりはしていられない。
宿命的に建築は常に自然との戦いという側面を持っているもの。なんとかこの
隙間風を防ぐ方法を考えてみることにした。ブラインドがダメだとすれば、こ
の出窓からの隙間風を遮断し、且つ柔らかな朝の光が享受でき、しかも時には
開けて空気の入れ替えが可能な便利な代物とは。答えは意外と早く出た。ただ
悔しいかな、またしても建築は素人のケイコさんのアイデアだった。
「障子はどうかしら。」
障子は敷居の彫りこみに添って、障子本体が隙間を作らず滑る優れものだ。光
の透過の具合も和紙を介しているため柔らかく、目覚め時にも優しい。
「多分、正解かも。」
好きこそもののである。和風好みの妻に一本取られた私は、潔く早々にいつも
の建具屋の社長に障子を発注することにした。もちろん材料は(予算がない時
の)スプルスでと念を押しておいた。
我が家の南側の隣地は、土地を購入した時点では、この辺りでは珍しい鬱蒼
とした森の中に、汚い木賃アパートが数軒建っていた。それが突然11階建ての
立派な賃貸マンションが建設されることになって仰天したが、偶然にもこの建
築を請け負ったゼネコンの所長と人脈がつながって、お互いの工事が上手く協
調できた経緯は以前お話した。そんなこともあって、このマンションの工事に
ついては、私も寛容な態度で通したが、悔しいかな世の中善意がすべて報われ
ることは限らない。
このマンションと私の自邸はほぼ同時に完成した。日影規制の関係で、以前は
眼前に迫っていた木賃アパートに代わって、新築された建物は数十メートルも
離れてくれたのは万々歳だったが、マンションに入居が始まって驚いた。何と
マンションの北側にある窓が全て透明ガラスなのである。つまり我が家の南に
あるどの部屋もマンション側から丸見えになっているではないか。
「アチャー、大失敗。」
社会通念上、相手が新築の際、北側の窓は型ガラスと呼ばれる不透明なものに
してもらう権利は認められるようだ。ゼネコンがいた時にクレームを付ければ
何とかなったのに。完成してからでは「後の祭り」だった。そこで仕方なく自
分で防衛策を考えることにした。
南側のこのマンションに向いた四か所の窓の内、食堂のアコーデオン式全開口
サッシは、その外のバルコニーの手摺壁を目線まで高く立ち上げたので、視線
が遮られてこのままでよく、カーテンも不要だった。次の居間のサッシには障
子を取り付けたので、ここも完璧に視線を遮ることができた。残るは、婆ちゃ
んの部屋と子供部屋の窓が無防備になっていた。
両方の部屋共、カーテンはあるものの、開けたら相手からは丸見えとなり、落
ち着かない。この窓の外に目隠しが必要となった。そこで思いついたのが、ス
ダレだった。京都の町屋の二階の窓に架かっているあの竹製の簾である。はて、
どこで調達したらよいかと思いを巡らせて見る。あるある。国道21号、つまり
甲州街道を調布方面に向かって右側に竹細工の店がある。他に青山の路地を入
った辺りにも竹工芸のショップがあったが、自称プロとしては場所代も合わせ
て払う気にはなれず、ひとまず甲州街道を下ることにした。
街道沿いにビルが立ち並ぶ一角に、瓦屋根の古民家風の佇まいは、これまで
も沿道を走っていていつも目に留まっていた。時々立ち寄ってはいたものの
、総理大臣賞を受けた作品がケースに飾ってあるだけあって、「これは」と思
う品物はとても手が出る価格ではなかった。いつかこうした名品がサッと買え
るような身分になりたいものだと思いつつ、いつも店を後にするのだが、時々
は配慮して、ケイスケに竹とんぼや竹で出来た本物の水鉄砲を買って帰ったこ
ともある。
今日はスダレを買う目的だから、堂々と背筋を伸ばして店に入ることにした。
「スダレください。」
何と、出てきたものは京都から入荷したという、実に精巧で透かしまで入って
いる上物だった。店の女性も、「きっと人を見て判断したのだ。」と悪い気は
しなかったが、見るからに高そうで一歩引いた。それにしても、透かし模様は
どうも趣味ではない。
「いや、たいした家ではないので安物でいいんです。」
「じゃあ、ヨシズでいいですかねぇ。」
結局、子供部屋には大きなヨシズ、母の部屋には透かし無しの竹ヒゴのスダレ
と決まった。それにしてもこの中級品のスダレ、丁寧に節の部分が波模様に揃
えてある。価格から考えたら、とても手間賃にもならない立派な仕事がしてあ
る良品だった。そもそも建具屋の障子も同様のことが言える。これでは、日本
の職人技の多くは、発展どころか消えていく運命にあるのは当然と思われた。
購入した品物を車内に斜めに押し込みながら、なんとなく罪悪感に浸ってしま
ったのは、同じ職人気質の私に限ったことだったのだろうか。
大工に頼む程のことでもない。窓の外の庇に釘を打ち付けて、早速買ってき
たスダレを掛けてみた。すると、ちょうど良い光が室内に入ってくるではない
か。なんとも「塩梅がよい」とはこのことだ。スダレ自体、半分くらいは隙間
があるので、数十メートル離れたマンションの窓からは、凝視すれば我が家の
部屋の中の様子もある程度うかがうことが出来ようが、まあ許容範囲とみた。
なんたって、透けて見えるのは裸で飛び回るガキと七十過ぎの婆さんの下着姿
だ。これでは見るだけ損というもの。
(つづく)
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■ ちょっと閑話
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先日こんな嬉しいメールが届きました。
可児さま 大変ご無沙汰しております。実はうちの妻が今、お腹が大きくな
っています。お腹のなかには約2000グラムのbabyが二人います。双子なんです。
今はすでに管理入院中、今日で33週目突入なので、11月から12月のどこかで生
まれる予定です。また、スポーツ新聞で見たのですが、お隣のOさんとSさん
(お二人とも俳優)のご夫婦も同様にご懐妊されたようで、出産予定日はOさ
んの父上(超有名)の命日と同じ1月28日だそうです。
『子供の産まれる家』を作っていただき、有難うございます。 拝
昨年お引渡しした住宅のオーナーからの嬉しい便り。このご夫婦、人も羨む
美男美女のカップルで、職業も編集長と女性カメラマン。二人とも超多忙で、
すれ違いが多いと聞いていたので、仕事も大事だが、こうした優秀な人たちこ
そDNAを残すべきと念じていた矢先の出来事。
お隣のOさん宅も同じく私の建売住宅。時々テレビで拝見する個性派俳優さ
んだが、実際は実に気さくな人。コンクリート造の住宅だったので、「これで、
安心して台本が読めます。」とは本人の言。夜な夜な「てめぇ、ぶっ殺すぞ。
覚悟しな。」なんてセリフを練習するらしい。ともあれ、どうかどちらも是非
奥様に似ていただきたい。
それにしても、新築早々に、しかも2軒同時に慶事が訪れるとは。『子供の
産まれる家』と思って設計したわけではないが、それだけリラックスしていた
だけたということか・・。ともあれ、解禁になったばかりのボジョレーヌーボ
ーで乾杯。
(つづく)
