システムキッチンを組む(2) - キッチンスペース - SE構法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

システムキッチンを組む(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.71」

  2006/3/12(不定期発行)

  第10章 キッチンスペース

   1.システムキッチンを組む(2)

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□ ご購読感謝

ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 1.システムキッチンを組む(2)


流し台のカウンターの高さは、現代人の平均身長の伸びにつれて、どのメー
カーとも以前より高くなってきている。標準は85センチのところが多い。我
が家では、背筋が伸びるように思いきって90センチにしようかと迷ったが、
妻の身長は女性としては平均的。「高すぎて肩が凝る。」なんて言われ、毎日
料理を手伝う破目になっては大変。無難なところで標準の高さに決めた。妻の
意見によれば、あと数センチ高くてもよかったようだが、この数センチを調整
できないのが市販品の不自由なところだ。

 ほぼ8帖間の広さのキッチンスペースにL字型にキッチンセットを組んで、
残った壁面に収納庫を並べると、物理的に真中にポカンと空きスペースが出来
てしまった。そこでここに四角の配膳台テーブルを置くことにした。廻りをぐ
るりと空けて適当な通路を確保し、真ん中の残った面積いっぱいの配膳台が理
想的だが、何でも特注となれば割高になるのは世の常。出来ることなら既製品
を上手く活用したいところだが、そんなものが市販にあるはずもない。価格を
心配しながら仕方なく特注で作ることにした。

「とにかく収納場所をいっぱいお願いよ。」妻の言葉に、意気込んで予算を割
いたため、棚板のいっぱいある壁面収納は十分確保できている。残るはスプー
ンなどの細かいものの収納が欲しいという。そこで、この配膳台と呼ぶ特注家
具の中に、浅い引き出しを可能な限り大量に取り込むことにした。家具の図面
を描くのも久しぶりだった。少し緊張しながら、引き出しの深さを慎重に決め
ていった。しかし、竹で出来た骨董品の30センチ物差しで、コップやボウルの
寸法をいちいち測ってメモをとる姿は自分でも滑稽に思えてきた。ついこの間
まで超高層ホテルの仕事に従事し、屋上のヘリポートまで設計していたという
のに。

 さて、天板は何が良いのだろうか。経験上、本物の御影石は止めにした。御
影石の場合、ガラスのコップや陶器の食器をちょっと乱暴に置くと、バリッっ
と無残な姿になってしまうからだ。この現象は、ホーロー製のシンクにもよく
起こる。硬いもの同士がぶつかった場合、危険な状態になるのはモノに限った
ことではない。(オイオイ、ここで人生論かい?)
しかし、性能的には問題があるにせよ、自然の御影石が見た目にも良いので、
人工大理石であるコーリアンで代用する事にした。

この配膳台つまりセンターテーブルは使用勝手の点で大正解だった。買い込ん
できたビニールの袋をまずこの台にドサっと乗せる。キッチンの中心にあるた
め、最初にここが物で埋まり、他に散乱しないのがいい。もちろん配膳台とし
て機能するが、普段は大きめの花瓶を真ん中に置き、季節の花を愛でる場所と
なった。私が恥を忍んで設計した浅くて広い引き出しは、ひと目でモノが確認
できるので、家族みんなが便利に使っている。

 キッチンの真上にも天窓を取り付けておいた。朝に暗いキッチンもないだろ
うと思い、最上階の利点を最大限活用したのだった。おかげで夕方になるまで
照明を点灯する必要はまったく無い。都心ではこうした明るいキッチンは意外
と少ないのではないだろうか。自然光が降るように入るキッチンは、実に気持
ちの良いものだ。よく台所は「モノが腐るので日光が入らない方が良い」との
ご指摘もあるが、食品はほとんど冷蔵庫に保管されている現在では、どうも根
拠の無い意見ようだ。ただし西日の直射は別として。

 天窓の項に書いたので重複するが、天窓の威力は明るさの確保だけではない。
風が抜けるのが捨てがたい魅力でもある。テンプラや焼き魚などの匂いの篭る
料理の後は、換気扇をフル回転させるより、この天窓をほんの少し開けてやる
だけでよい。数分後にはほとんど新鮮空気と入れ替わる優れものだ。自然の力
は実に素晴らしい。

 次に浄水器のことについてちょっと一言。自邸の設計を始めた数年前は、ち
ょうど浄水器が普及し始めた頃だった。当然のこと、妻は「どうしても取り入
れる。」と主張した。「そんなもの必要ないよ。」といくら諭しても、一度言
い出したら一歩も引かない『硬い』性格。概して女性はこうしたチマチマした
ものにこだわりが強いようだ。こっちは「仮に浄水器を通過させたとしても、
東京の水道水なんか絶対飲む気になれない。」と論理的に説得するのだが、妻
は頭の中で、浄水器を通してまろやかに変わった水道水をおいしそうに飲んで
いる自分を想像してうっとりしている。こうなったらもう誰が何を言っても無
駄だ。たいした金額でもないようなので「どうぞご勝手に」という心境で引き
下がっておいた。

 結局シーガルフォーという輸入品の浄水器がどこからか送られてきた。名前
だけを聞くと最新式で効果がありそうだが、チョロチョロと少しずつ蛇口から
コップに貯めないと効能が半減すると聞いた。毎日の生活でとてもそんなこと
をしている暇は無い。そのうち冷蔵庫の製氷器用の水に使用するだけになった。
「ほうら言ったとおりじゃないか。」私は何かで妻と意見が食い違うと、必ず
この浄水器を例に挙げ、事あるごとに自分の意見が正しいことを主張するネタ
にしていた。

 そんなある日。2リットル入りのイオン水が大量に我が家に届いた。最近頻
繁に起こる地震に備えて、私が勝手に通信販売で注文したものだったが、何を
間違ったか、ひとりで持ち上がらないほどの12本入りのダンボール箱がトラ
ックで20箱も届いたのだった。五十歳を過ぎて遂にボケが始まったのか。私は、
20本を20箱と間違って発注していたのだった。すかさず返品を申し出たまでは
良かったが、返品代が半分の10箱分にも相当することが判明してパニックにな
った。

「ところで置き場所はどこにするのかしら。」
この日から立場が一変したのは言うまでもない。車庫の片隅に山と積まれたダ
ンボール箱を眺めながら、つくづくマンションでなくてよかったと思う。また、
ペットボトルの水にも賞味期限があり、子供たちにも強制的にこの水で氷を作
るよう言い聞かせているので、ますます浄水器の水は使われなくなった。最近
飼い始めたラミナというチワワの飲料水になっているのを除いては。


(つづく)

 
 
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