
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.72」
2006/5/5(不定期発行)
第10章 キッチンスペース
2.食洗機の効用
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
□
□ ご購読感謝
□
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。
■
■ 2.食洗機の効用
■
次に、話は食洗機に移る。たしか私が小学校の頃、電気洗濯機なるものが
登場した。テレビより少し早かったと思う。今から思えばちょうどあの頃を
境に、田舎でも急速に自然が壊れていった。川も汚れ、ホタルも飛ばなくな
った。夜道も明るくなり天の川も見えなくなった。あれから半世紀、遂に洗
濯機は食器類まで洗うまでに進化した。正式名称を食器洗い乾燥機と言う。
プロ用は別として、一般に販売が開始された十年ほど前から、浄水器同様そ
の効力には半信半疑だったが、自邸を設計する数年前に手がけた住宅の奥さ
ん達から、こぞって食洗機導入の要望があり、「住宅に関しては設計士の自
分より施主の方がよく研究されている。」と目覚めることになった。
それでも新しいものはすぐに受け容れられない奥ゆかしく古風な性格の私。
自邸の設計の時もそれほど関心も無かった。言い訳がましいが、この辺りの
知識は建築学の範疇を越えるものと思いたい。導入に積極的な妻にも「お湯
も出るんだし、食器くらい自分の手で洗いなさいよ。」と導入反対の意を表
していたが、最後まで無視され、結果ピカピカの食洗機が備わってしまった。
ところで、新居に移転すると同時に悲願だった亭主との別居生活が実現し
た私の母は、三階で長男夫婦と同居することになったが、
「なんかやることがにゃぁと居りづらいでいかんわ。」
ということで、食器の後片付けと洗濯が日課となっていった。
「これで私は仕事に専念できる。」と嫁は涙して喜んだ。
こうして役割分担をはっきりさせることが嫁姑のトラブル回避の秘訣でもあ
る。
さらに婆ちゃんには「どうせなら料理も」とお願いしてみたところ、こちら
はすぐに子供達から大ブーイングが出た。息子の私には初耳だったが、元来
料理が好きではないらしい。しかも長年、高血圧の親父に合わせてきたこと
で、料理の味はどれも淡白になっていた。自分はこれで青年期まで育ったの
かと思うと少し悲しくなってきたが、当時はどこも質素な食事だったと記憶
しているし、そのお陰で現在も健康なのだから文句は言えない。だが、飽食
の時代で、しかも育ち盛りの子供たちには通用しない。すぐに料理は母親の
ケイコさん担当に戻った。
新しいものを扱う場合は、誰でも最初はぎこちないものだ。食事の後片付
けが日課になった婆ちゃんも、最初のうちは食洗機にはまったく見向きもし
なかった。
「東京に来てからシモヤケもできやへん。岐阜に比べて、どえりゃあぬくと
いで。」
ともっぱら水洗いに徹しているようだ。だが、嫁と姑の摩擦は夫が進んで避
けなければならない。妻の採用した食洗機をなんとしても活用させねば。
「油が落ちんで、なるたけ食洗器使やぁよ。」
と、わざと田舎言葉で母親に指示を出してみる。あえて田舎の言葉を使うの
は、叱る意味にとられない配慮からである。
そんなことがあって数ヶ月後。それは器用に食洗機を使いこなしている母
親の姿を発見して安堵した。感想を聞いてみると、
「すぐに乾くでエエわ」
とのこと。洗うという本来の機能より、食器棚に収納する際に乾いているこ
とがうれしいようだ。特にコップ類は曇りも無く、手作業より数段美しく仕
上がるらしい。食事の後の山のような食器類が、わずかな時間で消え去って
いく。簡単な手洗いの後、すべて食洗器に収納されていくからである。
「水切りの為に、食器が流し台に残らないのがいいのよ。」と導入を決めた
妻のケイコさんが誇らしげにのたまう。彼女の口上はさらに続く。まず、食
洗器の機能の中でも特に重要な油汚れを落とすために、使用するお湯は60度
くらいの熱いものが効率が良く、このことを重要視して機種を決めたとのこ
と。
そうと最初から言ってくれれば給湯器を二台に分けたのに。浴室や洗面所用
のもの台所専用とを別にすればよかった。が後の祭り。一台で兼用した方が
得と考えたのが浅はかだった。一台の給湯器を普段使いで60度に設定した場
合、シャワーなどでヤケドの心配もあるので、食洗器を使用した後には必ず
43度程に戻す必要が生じた。かわいい孫に万一のことがあってはいけない。
「いちいち温度の切り替えの手間が要るでいかんわ。」と食洗機担当の婆ち
ゃんの愚痴が聞こえている。
(つづく)
