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建築家の自邸、満足と反省の物語

収納と作業空間

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.73」

  2006/11/30(不定期発行)

  第10章 キッチンスペース

   3.収納と作業空間

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□ ご購読感謝

 ご購読いただきまして誠にありがとうございます。
 そして、謹んで読者の皆様にお詫び申し上げます。
遂に小生のメールマガジンに、まぐまぐ事務局からイエローカードが出ました。
半年間も発行をサボっている不届き者に最後通達です。面目ないことです。
世の中の景気が多少良くなっているのでしょうか、今年はこれまでになく
多くの皆様からの設計依頼が舞い込み、嬉しい悲鳴とともに忙殺されてしまい
ました。
「設計とは考え抜くこと。」ですので、いくら時間があっても足りないのです
が、ついつい目の前の仕事が優先になってしまいます。お許しください。
足掛け6年。これまで辛抱強く読み続けていただいている読者の皆様に感謝し
つつ、老体にムチ打ってラストスパート。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 3.収納と作業空間


 衣食住の生活概念から考えても、洋服の収納スペース同様に食の為の収納は
不可欠で、住宅の設計の中でも重要なポイントになると思う。その昔、どの家
にも土蔵があって、1年の間に一度も使用しないような祭事の為の食器類を後
生大切に仕舞ってあった。近年、個人の家での祭事が少なくなってきたことに
比例して、あの立派な蔵も消えつつある。実際ここ数十年の間に私の田舎の親
戚も次々と土蔵を壊していった。

とは言うものの、処理するどころか何でも仕舞い込む悲しい性(さが)は、ま
だ世の女性達から無くなってはいないようだ。一見賢そうな私の妻も例外では
なかった。これまでの狭い古家の、いったいどこに押し込まれていたのだろう
か、新居への引越しの時に封がされたままのダンボール箱がいくつも湧いて出
た。半分が洋服、そして残りが食器類や台所用品である。女性の場合、友人の
結婚式の引き出物など、たしかにポイと捨てられないものが多いようだ。

「キッチンは床から天井までの壁面収納にしてね。」そんな妻の要望に答えて、
とりあえず設計は終えたものの、メーカーの見積り書を見て息を飲んだ。「こ、
こんなに高いの。」製品代の他に施工費も載っていて、予想外に高価なものだ
ったからだ。冷静に内容を分析してみると、流し台などのシステムキッチン同
様、扉の表面材の価格が大きく影響していることが分かった。当然ここはプロ
として、性能本位の考えに戻るのが賢明である。扉の材質を最も低い価格帯の
中から選ぶことにした。

 しかし、いざ選択しようとすると、やはりお金は正直だった。メーカーには
悪いが、スタンダードと名のついたアイテムの中にはロクなものがない。なる
べく手間をかけないで製作しようとの意図が見え見えなのである。職業柄この
種の製品の品質には勘が働く。カタログなどで「これしかない。」と私が選ぶ
ものは、例外なく一番高価なものである。どうやら世に言う「イイものは高い。
」は的を得ているようだ。「上を見たらキリがない。」と開き直ることも出来
ようが、これまで名のあるホテルのインテリアをまとめてきた自負もある。仕
方なく、もうワンランク上のランクにあるアルミ枠に囲まれたガラス扉に決め
た。なんとなく中身がボヤッと透けて見えるが、その分奥行き感が増して、一
応デザイン的にも許せる範疇となった。

 こうして床から天井までの収納庫はなんとか実現することとなったが、その
奥行きを決めて発注しなければならない。一見奥行きの深いものの方が収納力
があるように思われる。しかし、詰め込んだ奥のものは取り出し難く、きまっ
て不用品の温床になるのが常。理想的には60センチ程度の深いものと30センチ
程の浅いものの両方が欲しいところだ。そこで、冷蔵庫と並ぶ列には深いもの、
他方には食器類の収納を目的に奥行きの浅い収納庫を配してバランスをとる事
にした。
 
 冷蔵庫の隣の収納庫は位置から判断して、乾物類の食品庫に充てた。最も頻
繁に開閉することから調理場に近い場所としたまではよかったが、後日面倒な
ことが発生した。この扉が常に開け放し状態となるので、極めて邪魔になるの
である。原因は、ここを「おやつ置き場」にしたからだった。観音開きと称さ
れる両手を左右に大きく広げて開けるタイプの扉は、開け放つと中身が一目瞭
然。この食品庫、さらに優れもので、冷蔵庫のごとく扉の裏側にも編カゴがく
っついていて、犯人の彼等にとっては中身が丸見えで好都合。学校帰りの最初
の日課でもあるが、なぜか扉をキチンと閉める習慣が身に着かない。要は躾の
問題なのだが、近い将来、この開け放し状態が無くなるのも、それはそれとし
て淋しいことかもしれない。


(つづく)

 
 
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