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建築家の自邸、満足と反省の物語

ダイニングルームについて(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.75」

  2007/2/20(不定期発行)

  第10章 キッチンスペース

   5.ダイニングルームについて

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□ ご購読感謝

 ご購読いただきまして誠にありがとうございます。


このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 5.ダイニングルームについて


 人間誰しも、押し付けられた分だけその反動は大きくなるもののようだ。
ほんの少し前まで、我が家の食卓は80センチ角のコタツ板だった。麻雀をする
のにはちょうど良い広さだが、子供二人に爺婆を入れて家族6人の食卓として
は、いつも惨めさが漂っていた。今思い出すと何年間もよく耐え忍んでいたも
のだと感心してしまうのだが、「知らぬが仏」それはそれで毎日がなんとなく
過ぎていった。

部屋の広さは8帖間だったが、食事の場としてだけに留まらず、居間や応接間、
子供の遊び場を兼ねていたのだから、毎日のイライラが蓄積した妻の髪の毛が
時々逆立ち始めていたことに私は気づいていた。
「何とかせないかん。」(宮崎弁)とは思うものの、現実的に設計事務所の仕事
では、それを一挙に払拭するほどの収入や活力は得られない。「チクショー、
あのバブルの崩壊さえなければ。」

しかし、そんな狭いコタツの食卓でも、毎日家族が集合して会話を交わす大切
な場となっていた。言い換えれば、食事の場が住宅の中心になっていたのだっ
た。紆余曲折あって、数年後に新居が建てられる境遇に至った時、最初に設計
の与条件に書き込んでいたのがこの食事の空間だった。

これまでの生活で馴染んでいた8帖間そのものを、食堂としてのみ利用できた
らなんと贅沢なことだろうか。ついでに天井の高さも3メートルを超えてしま
おう。朝の光だって取り込んでしまえ。設計はだんだんエスカレートしていっ
た。

最終的に新居の食卓は、「何でも大きい方がいいのよ。」と身体に似合わず豪
語する妻の意見で、古家のコタツ板の約4倍の広さに拡張された。確かにダイ
ニングテーブルは大きい方が使用勝手も良いし、住宅の象徴としての迫力が増
すというもの。

具体的な大きさは夫婦で向かい合って、ちょうど良い距離を測ることにした。
きっと新婚の頃ならもう少し短くなったに違いないが、「7年目の浮気」が危
ぶまれる時期となった今日では、1メートル前後がちょうど良いという結論に
達した。だが私達の夫婦生活も今のところはしばらく続きそうだ。将来も考慮
して、あと5センチお互いの距離を離すことで合意した。長辺は見た目のバラ
ンスを考えて2.5メートルとしたが、後日の反省としては使用勝手上やや長す
ぎた感がある。

そんな訳で、我が家のダイニングテーブルのサイズは1.05×2.50に決まった。
しかし、そんな大きなものは規格品としてどこの家具屋にも売っていなかった。
「この際は特注するしかない。」と決断した時、ヒノキ工芸の戸沢さんの顔が
浮かんだ。この住宅の中心的シンボルの食卓なのだ。やはり彼に依頼するのが
相応しい。

鮨好きの私としては、生涯使用する食卓の材質はヒノキのムク板が理想だった。
しかし、鮨屋でよく聞く話として、あの美しい白い木肌を保つためには閉店後
も毎日、牛乳とヌカで磨き上げるのだとか。さらに子供が醤油でもこぼそうも
のなら・・・。それに、ヒノキの厚板は、近年では大変な貴重品。そもそも価
格的にも無理な話だった。

「それなら、代替品としてメープルの良い板が有りますよ。」
メープルとは楓の木のこと。素直な白木で木肌も優しく、ヒノキに似たところ
もあるが、どちらかといえば女性的な感じがする。それでも「戸沢さんがイイ
と言うのなら」とメープルに決めた。任せる以上は、後でどうこう一切言わな
いことがルールだが、この人の場合、これまで私の設計イメージより劣ったも
のを作った例(ためし)がない。その点は安心だった。
「メープルは比較的柔らかい木なので、家庭での荒々しい使用に耐えるため、
透明の皮膜を塗っておきました。」とニクイお言葉。勿論、出来ばえは言うに
及ばない。

 ところで、住宅などの小さな建物では、天井高が3メートルを超えてくると、
空気感とも形容できるある意味の感動を覚えることがある。非日常の空間とし
て意識するのだろう。我が家のダイニングルームも例外ではなかった。しかも、
真ん中に大きな天窓を取り付けたことで、曇った日でもテーブルの上は常に明
るく、見上げると空が動いていた。なんともドラマチックな空間に我ながら酔
いしれるのであった。

その高い天井から、最近特に気に入っているフリスビーという名のペンダント
式照明器具を吊り下げることにした。ヤマギワで扱っているイタリアの巨匠カ
ステリオーニの作品だが、これはその形のユニークさに加え、電球の光源が直
接目に入らない機能的にも優れものなのである。

家族の皆が集まる場所ということで、食事スペースの東側の壁全体を思いきっ
て壁面収納とした。皆が共通に必要とする医薬品や救急用品など雑多な日用品
を一同に集めて収容しておく場所があれば、きっと周囲に散乱しないだろうと
考えた妻からの要望だった。しかも、「壁いっぱいにバーンと。」なのだそう
だ。

だがこれが後日になってジワジワと効果を発揮してくるから困ったものだ。
つまり、このあたりの工夫は建築家の範囲を超えている。素人ゆえの発案と言
うか主婦の知恵と言うか、決して建築学からは会得できない設計術なのである。

しかし、せっかく確保した8帖間の広さが削られるのは忍びない。「奥行きは、
ほんの少しでいいのよ。」との言葉でひらめいた。木造の柱の厚みを利用した
らどうだろうか。大工に頼んで外壁を柱一本分外に追い出して断熱材を外した
空間と合わせたら、雑誌が楽に入るスペースが確保できた。それでいて部屋の
広さは変わらない。

「考え抜けば必ず良いアイディアが浮かぶ。」
安藤さんの言葉を実感して自慢げな私だったが、「随分スケールの小さな建築
家ね。」と発案者の妻に苦笑された。


(つづく)

 
 
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