ダイニングルームについて(2) - キッチンスペース - SE工法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

ダイニングルームについて(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.76」

  2007/5/2(不定期発行)

  第10章 キッチンスペース

   6.ダイニングルームについて(2)

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□ ご購読感謝

 ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

2ヶ月ぶりのメルマガで、読者の皆様の中には、話の続きを思い出せない方も
多いのではないでしょうか。本当に申し訳ない気持ちです。
その都度書き留めたメモ書きは多いのですが、これをまとめる作業がなかなか
進みません。でも、必ず最後まで書き終わりますので、もうしばらくお付き合
いください。次週からは話も各論に入り、野球で言えば8回の表あたりです。


このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸を
建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 6.ダイニングルームについて(2)


 特大のダイニングテーブルに椅子はカッシーナ社のブレイク。実はこの椅子、
その昔バブルの頃に渋谷公園通りの私の派手な事務所で応接用として活躍して
いたもの。イタリア製の名品で4脚揃えると一台の車が買えるほどの品物。
こんなものが簡単に購入できたのだから、本当にあのバブル期は異常だった。
しかし数年後には、この事務所は閉鎖に追い込まれ、自宅に引き篭もることに
なってしまったのだが、古家の押入れでの長い眠りから覚めて、再び生き返っ
たのだった。こうして家具は最高級、さらに高い天井とそこにある天窓からは
青空やお月様が眺められる。
「こんな空間で毎日食事ができるようになる。」
想像しただけでも胸が躍った。

しかし、私は建築家として特別成功した訳でもない。我々夫婦にとって、こん
な空間で毎日寝起きできる、そんな贅沢が本当に許されることなのだろうか。
建物の竣工が近くなってからも、互いにふと顔を見詰め合う日々が続いた。残
念ながら愛情の確認というよりは、不安と裏腹の「本当にいいんだよね。」と
いう暗黙の確認作業だった。

 ところが我々もやはり平均的な俗人、「何か落とし穴があるのでは。」と恐
れながらも欲は果てしなく続く。実際に工事途中でボード張りの食事のスペー
スに立つと、南側にある避難用バルコニーが貧相に見えてきた。そして、単に
外に出られるだけでは我慢できなくなっていた。ここまできたら出来る事は全
てやってしまいたい。
「ここに観葉植物をいっぱい並べたらオシャレね。」
妻の一言にまたしても奮い立った。

 我々の住まいは地上三階にある。ここにバルコニーを大きく作るとなると、
壁から床を直接ハネ出すか、地上から長い柱を立てるかのどちらかの方法が考
えられる。隣との境界近くまでいっぱいにバルコニーを張り出すとすれば、約
六帖の広さが確保できるが、これを柱なしのハネ出し方式で実現させるには、
かなりの覚悟が必要だった。ハネ出し方式の場合、木造では通常1メートル少
々が限界で、出幅2メートル以上となると大袈裟な仕掛けが必要で、将来の経
年変化を考えると無謀に等しい。

確かに京都にある知恩院の大殿の屋根などは、5メートル以上も空中に張り出
しているのだが、あれは日本に建築の超人たちがいた古「いにしえ」の頃の業。
現在ではとても真似の出来る代物ではない。で、結果は恥ずかしくも、地上6
メートルの鉄骨の柱2本で支える事になった。

 組みあがったバルコニーの床に立ってさらに欲が出た。
「どうせならここの建具をフルオープンに出来ないか。」
数年前からアコーデオン式のサッシが登場しはじめていた。開け放つと窓のほ
とんどが何もない状態になる優れものだ。網戸をどうしようかとの検討事項も
あったがもう思いは止まらない。現設計の引き違いサッシを変更するのに何の
躊躇もなかった。しかし、この安易な判断が後に問題を抱える事になる。

住み始めて一年も経たないのに開きづらくなってきたのだ。最初のうちはクレ
55で騙し騙し使っていたのだが、いよいよ開閉が重くなってきた。重いという
より開かないのである。試しに巻尺でサッシの高さを測ってみると中央がやや
低くなっている。つまり上から押さえつけられた形だ。しかし、最上階でもあ
るし、屋根以外は何の荷重もかかっていない。今度は大工仕事である床からサ
ッシ上の窓枠までの高さを測ってみると不思議なことにタレていなかった。清
水棟梁の仕事である。当然なのだが。

はたして、責任はサッシ本体なのか、それとも取り付けた大工の仕事の範囲な
のか結論が出ないまま今日に至っている。サッシの白いレールは何度も力ずく
で開閉させられた結果、無残にもアルミの金属色が露出してしまっている。
さらにガラス窓とサッシ枠の間には隙間ができ、ホームセンターで買ってきた
隙間テープが貼られる始末、脇の収納庫にはクレ55が常備されている。これが
我が家でなかったら、当然クレームとなって修理を余儀なくされている。勿論
このサッシを取替えるとなると、外壁も内壁もやり直しである。

それでも五月晴れの日曜日の朝。クレ55をシュッと一吹き、アルミの擦れる音
を無視して、このオープンサッシを力ずくで開け放つと、瞬間あのハワイにも
劣らない乾いた風が頬を撫でていく。バブル崩壊以後、すっかり遠くて憧れ的
存在になってしまったハワイだが、同じ気分を自宅で疑似体験できるのだから
人生諦めてはいけない。心配された網戸は、特注で建具屋に依頼したものの、
開け放していても不思議と虫が入ってこない。まして、蚊の姿もほとんど見か
けることもなく、少々肩すかしの感じだ。私の持論では、地上三階ともなると、
蚊の諸君も途中で昇るのを諦めてしまうのだろう。

 こうして我が自邸の中心的存在のダイニングルームは、ほぼイメージどうり
の快適な空間に仕上がった。後にボーズの小さなスピーカーを壁に掛け、軽い
ジャズやBGMを流しているが、これがまたニクイほど演出効果がある。手前味
噌なのだか、下手なレストランより数段居心地がよい。
ある日「結婚したら、すぐに建替えるからね。」の言葉を信じつつ、8年以上
も待たされた妻はある日突然食卓用のテーブルクロスまで買ってきた。

生まれ故郷に程近い有田の窯元で、人気の高い源右衛門のオリジナル商品だっ
た。「どう転んでもお互いセレブにはなれないよね。」と笑ってはいたものの、
使ってみると実に豊かな食卓に見えるから不思議だ。新居に移ってからは、配
膳の準備はいつも子供達の仕事になっているが、いつの間にかこのテーブルク
ロスが人数分最初に敷かれている。
人間、環境で変われば変わるもの。ああ、あのコタツ板が懐かしい。


(つづく)

 
 
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