廊下と階段(3) - 各エリアの考察 - SE構法、重量木骨、注文住宅なら一級建築士事務所 QUEST クウェスト

建築家の自邸、満足と反省の物語

廊下と階段(3)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語 NO.81」

  2008/1/23(不定期発行)

  第11章 各エリアの考察

   3.廊下と階段(3)

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□ ご購読感謝

 ご購読いただきまして誠にありがとうございます。


 昨年暮れのギックリ腰のアクシデントもようやく治まり、新たな気持ちで
仕事を始めました。ようやく竣工した「代沢マンション」の経験を生かして、
新たに吉祥寺駅近くに「松庵マンション」の計画が進行中です。
現在は早期着工を目指して、昨年に施行された改正建築基準法との戦いの日々
ですが、確認申請を提出して許可をいただくことが「戦い」と言いたくなるほ
ど苦しめられる設計士仲間には、まだ春は遠いようです。



■ 3.廊下と階段(3)


 「階段の材質は何がよいのか。」と問われれば、昔から厚い無垢の板と相場
が決まっている。ある程度の強度があって、足触りが良いとなれば、木造住宅
が主流だった日本ではこれに勝るものはない。よく旅行先で立ち寄る歴史的建
造物の階段は、いずれも黒光りがして素足に優しい板になっている。長年の間
に踏みこまれて面が取れ、真中がわずかに凹んだ階段板の美しさに感動を覚え
る私は、自分でも気付かないうちに骨董に興味を覚える年頃になったのかも知
れない。

 最近ではこの堅木に代わって、集成材が流通するようになった。乾燥された
無垢の板は、希少価値として高価なものになっているからだ。価格が優先され
る最近の住宅建築では、そんなものは到底使えないので、集成材に紙のような
銘木のスライスが貼ってある一見美しい既製品の階段板を、カタログから選ぶ
ことになる。
「松がいいか、やっぱり欅かな、いやいやフローリングと同じオークの方が。」
今日この時点でも、日本の各地でこんな会話が多くなされているに違いない。
「どうだっていいじゃない、どうせ中身は同じ集成材だから。」
と私の本音が聞こえたら、
「それを言っちゃあ、おしまいよ。」と、各メーカーから大ブーイングの嵐だ
ろうが、確かに集成材は俗にいう暴れの少ない結構な材料ではある。しかし、
悲しいかな無垢の板のように年を経るごとに深みと味を増すことは期待できな
い。

 室内では素足で歩く習慣のあるわが国では、足の裏の汗を素早く乾燥させら
れる清潔感と掃除のしやすさからも、階段の材料としては、木の右に出るもの
はないように思われた。しかし、わが自邸では当然とも思える無垢の木を捨て
て、近年嫌われ者のカーペット敷きを採用したのだった。二層分の階段板を無
垢材で指定すれば予算オーバーは必至。定石崩しで有名な米永棋聖の心境で、
これが以外に価格がリーズナブルなカーペット敷きの長所を優先したのだった。

 カーペットの長所は、足音が響かないこと。厚めの合板でとりあえず階段を
作り、フェルトと呼ばれるクッション材を貼った上に、やや厚手のループカー
ペットを敷き詰めることにした。こうすれば同じ木造の建物の中で、界壁を隔
てたアパートにも足音が響きにくい。心配されるダニの発生も、階段であれば
個室のように暖を取ることもないので極めて少ないと思われた。サンプル帳を
調べると、最近のカーペットには抗菌処理済みのマークがいっぱい付いていて、
「どれも清潔で安心よ」とメーカー側の必死のメッセージが見て取れる。

「ホテルのような家づくり」のコンセプトを思い出し、ホテルに欠かせないカ
ーペットをどこかに採用してみたいとの気持ちは以前からあったが、決め手は、
竣工時にちょうど小学校に入学する暴れん坊の長男ケイスケの存在だった。最
近でこそウルトラマンタロウの真似はしなくなったが、階段で数段ごとのジャ
ンプを繰り返す無謀な習性はまだ残ったままだ。ワンパクで、イタズラ好きの
素養が見受けられても、一応は親としての配慮が必要だった。
「ここはひとつ安全を最優先しよう。」久々に夫婦で意見が一致した。

 案の定、引っ越したその日から、ケイスケはスーパーマンの格好で、頭から
逆さに階段を滑降しながらて落ちていく。緩めの勾配が適度な速度を与え、途
中の踊り場の存在が辛うじて暴走を止めている。彼にとっては格好の遊び場と
なったようだ。階段が板になっていれば、一度で懲りたに違いないが。

 ところで、そもそも建築家の職業は私のような温厚で誠実な性格でないと務
まらない。施主の横暴な要求にも笑顔で耐えて、辛抱強く説得を繰り返しなが
ら理想案に導かなくてはならないからだ。しかし、そこは人の子。説得がまま
ならず仕事でストレスが溜まることも少なくない。

 ある日、私は珍しく怒鳴っていた。相手は長男のケイスケ。イタズラの度を
越した仕草と口答えに、父は珍しくキレた。子供のお仕置きとしては、寒い外
に出すのが効果的。しかし、三階の子供部屋から外に連れ出すには、首根っこ
を掴んで階段を二層分降りなくてはならない。
「グズグズするな、早く外に出なさい。」
こちらも多少なりとも冷静さを失っていたので、当然ケイスケとは歩調が合わ
ず、彼は階段を踏み外しながら玄関に向かって転げ落ちていった。緩い階段と
分かっていても、回転を繰り返す息子を見ながら、
「しまった。これはやばい。」
一瞬後悔の念が走り、冷や汗が吹き出してきた。

「あなた、いい加減にしてよね。階段がカーペット敷きでよかったものの。」
叱っているはずの父親は、妻から真顔でお叱りを受ける始末。確かに、これが
もし堅木の階段だったら、かなりヤバかったと反省しきり。カーペットのおか
げで、骨折こそなかったものの、シッタと呼ばれるヤスリのような左官の壁で
擦り傷が生じ、肘やひざから血がにじんでいるケイスケを見やりながら自責の
念で眠れない夜を迎えたのだった。

 しかし、敵もさる者。同様な事件がその後も頻繁に訪れた。そして、その度
に彼は身のこなしを軽くし、三段跳びの術に磨きをかけていく。子育ての苦労
を考えれば、少しばかり傲慢な施主とのお付き合いは楽なもの。最近になって
悟る中途半端な建築家なのであった。


(つづく)

 
 
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