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地主が好意的な理由(わけ)

まずこの塀がどちらの所有物であるか確認することになった。両端の境界石はブロック塀の真中にあった。この点では塀は両者の半々の所有と思われる。しかし、控え壁は全て北側の隣地側に在った。一般的に敷地の境界に沿って立つ塀は、控え壁のある敷地に属することが多い。面倒なことになるのかと不安がよぎった。地価の高い都心部では、わずかの差でもン十万円にもなる。いくら自分の土地でないとはいえ、隣人ともめるのは避けたい。

が、それは取り越し苦労であることがすぐにわかった。なんと押しやった北側の隣地も、同じ中田さんの所有地で借地だったのだ。ブロック塀自体にも亀裂が入り危険な状態だったので、結果的には地主の負担で新しくアルミのフェンスに取り替えてくれることになった。

これまでのブロック塀と違って風通しもよく、軽量なので控え壁も不要になり、事実上、土地が広く使える。こう書くと中田氏は、地主の鏡のような人物に聞こえるが、それはやや尚早。私が新たに借地人となったお陰で、彼の口座にはある日突然、「名義書換料」と「建て替え承諾料」として、私から、相当の大金が振り込まれている事実を忘れてはいけない。

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