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家の中で車が回転する大胆なプラン

自邸が木造と決まった時点で構造的にも不安が残った。私達の取得した敷地は、幅員四メートルの私道のどん詰まりにあり、一辺十一メートルのうち、四メートル分しか道路に接していない。しかも駐車のための空き地を確保するほど、敷地にゆとりも無い。そこで、建物を作って、その一階に車庫を取り込まざるを得なかった。

さらに、車を建物の中で反転させる空地を作らないと、一度突っ込んだら最後、容易には出られない。つまり、一階の間取りは、車の回転のために、ほとんど柱の無い広いスペースが必要になる。従来の木造の構法で、果たしてこんな建物が成立するのだろうか。

構造設計者に相談してみると、計算上の荷重や地震時の耐力は一応基準値をクリアできるらしい。しかし、経験的に一抹の不安は拭いきれない。倒れないにしても、長年の間に歪がくるのではないだろうか。

「いやねぇ、超高層ビルの設計が得意だったあなたが、この程度のことで悩んだりして」

いや、ごもっとも。自分でも本当に専門家かと疑いたくなった。とても今、手掛けている仕事の施主や関係者には見せられない弱腰の私。その道のプロでも、ひとたび自分の事になると素人同然に戻ることがあるらしいが、まさにこれだ。

妻の故郷の長崎では
「なんばしとっと、情けなかー」
と言うらしい。

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