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今度は、融資でつまずくことに

「申し訳ありません。融資は無理です」

当時、巷では銀行の貸し渋りが新聞紙上を賑わせていた。まさか我が身にその火の粉が降りかかろうとは。

「おいおい、これまでの『実績』はどうなったの?」

電話ではラチがあかない。銀行に出向いて直談判することにした。このままでは自邸の建築は不可能になってしまう。

担当者が申し訳そうに小声で言った。
「一番の理由は借地だからです」

確かに借地権の上に建っている住宅はローンが組みにくいとは聞いていた。ただ不動産に詳しい関係者によれば、実行されているケースも少なくないらしい。ここで引き下がったらこれまでの苦労が水の泡と消えてしまう。

支店長室に通された後も、借地権を競売で市場より安く手に入れたこと。アパートが付いていて楽に返済できることなど力説したが、
「なんとも本部の決定なので」
と、あっさりかわされてしまった。いつもは冷静な妻も、湯呑の蓋を取る手が怒りで震えている。

「ダメならダメで、どうしてもっと早く言ってくれないの」
吐き捨てるように言い残して私達は席を蹴った。

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