「エッ、ウソ! マジッスカ?」
「あなた一人で行ってきてちょうだい。私、子供のことで忙しいから」
水道橋駅近くにある住宅金融公庫の建物は、それはそれは立派で、職業柄つい立ち止まって観察してしまう。「これでもか」と予算をかけた立派なビルであった。将来の参考にしようと、設計上の意図、建造物の仕上げ材、ディティール(細かい納まり)など、時間をかけて頭に入れると少し落ち着いた。
例によってお役所仕事、二十分ほど待たされた。「どうせダメもと」の心境なので、待たされても大して腹も立たない。やがて順番がきてカウンターに座り、事実のみを淡々と話してみた。しばらく無言だった窓口の担当者から、これまた事務的に答えが返ってきた。
「借地でも融資は可能です。敷地の広さも大丈夫ですし、特に問題は無いと思われます」
「エッ、ウソ!マジッスカ?」
と、最近の若者のようには言わなかったが、にわかに信じがたい。晴天の霹靂とはこのことか。
あまりに簡単な返答に、何か落とし穴が無いかと執拗に質問を繰り返してみた。しかし「融資の手引き」に書いてある項目には何の問題点も見つからないという。何と、最後の解決策が公的融資だったとは。
「エッ、ウソ!ホント?」
抑えようとしても頬が緩む。その場で直ぐに妻に連絡したのか、じっと待って夕食後に驚かせたのか、そのあたりがよく思い出せないが、とにかく9回の裏に逆転代打ホームランが出たのだった。宝くじで、二等に当たったのに等しいと思われた。
その後、具体的には住宅金融公庫と年金融資の枠を合算し、足りない分は、あの地元密着型の八幡銀行から資金を借りることになった。なんと、あれから支店長は本部を説得し、(将来有望な?可児社長に限って)借地でも融資してよい、という特別枠を確保してくれていたのだった。ここにも「拾う神」が居た。それからというもの、私の座右の銘が決まった。
「人生、投げたらあかん」
紆余曲折があったが、いよいよ工事開始の目処が立った。