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基礎工事が、始まらない

住宅の基礎は大別して布基礎とベタ基礎の二つがある。建物の外周と部屋割りの壁の直下を深く掘り下げて、固い地盤に底盤を沈める布基礎が一般的だが、私の自邸の場合、間取り的に駐車場スペースが広く、荷重が一部の部分に集中してしまう不安があり、全体で荷重を受けるベタ基礎を採用することにした。

最近では一般的にベタ基礎の方に人気があるようだが、双方長所と短所がある。たとえば、つい最近まで建物が建っていて解体間もない時期に、同じ場所で新しく基礎を造る場合、古い基礎を撤去するために地盤を掘り返した上にベタ基礎を載せるとどうなるか。掘り返した畑の畝のようなものと考えれば一目瞭然だ。

つい最近、東京の下町と呼ばれる地域で、設計施工を請け負ったが、区役所でベタ基礎が許可にならなかった。多くの業者が深く掘らないで施工を簡略化するケースが多いとの理由で布基礎の方を推奨しているということであった。ベタ基礎だから絶対イイとは限らないようだ。

遣り方を終えて一週間が経った。当時住んでいた古屋から歩いて五分とかからないため、ほとんど毎日現場に行ってみる。小型のユンボが頼もしく土を掘り返しているはずだった。よし、これで、着々と。

ところが、今日も一向に肝心の基礎工事が始まらない。一体どうしたことか。
「おい、今日も誰も来ていないぞ!」
腹立たしげに妻に告げる。

「ちょっとあなた、誰かに似てない?」
そ、 そうか。今か今かと待ち遠しかった、あの関根さんの心境にウリふたつだったのだ。

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