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犯人探しを止めた訳

私の現場もそれから2週間程して、コンクリートの基礎に土台を固定するアンカーボルトと呼ばれる鉄筋を埋める作業になった。在来工法ではこの作業も基礎工事を総括する鳶職が行うのだが、SE構法では柱の付け根に特殊な金物を取り付けることと、しかもその位置の精度が高く要求されるため、私は前回と同じく大工の清水棟梁を呼んだ。と、どうだろう。彼は早速、秘密兵器を用意して現場に現れた。

前回の経験から、5ミリの誤差でアンカーボルトを埋めることができる道具をベニヤ板を加工して作っていた。やはり職人はこうでなくてはいけない。特にアバウトな私のパートナーはこうでありたい。しかしコンクリートを流し込んだ後、そんな彼の仕事でも計測器によれば百本近いボルトの中で2箇所だけ5ミリ以上の誤差が発生していた。正直な棟梁が困り果てた顔を見せる。
「いや参った。どう直しますかねぇ」

対処の方法を相談されたが、私も初めてのケース。明確な解決策を指示できない。ところが翌日、きちんと柱脚金物が取り付いているではないか。

どうやら誰かがハンマーを叩いて、力ずくで修正したようだ。もちろん、清水棟梁ではない。このことを発見した私は唖然としたが、あえて犯人を捜し出すことは止めた。理由は、この構法自体にも問題があると判断したからだ。そもそも現場の基礎の仕事で五ミリの精度を全てに求めるのは無謀な話。ここにもSE構法の改善点が見つかった。

基礎工事の段階で、わざわざ大工を出動させて、しかも秘密兵器を駆使しても、完璧に金物をミリ単位で取り付けできない現実がある。他のSE構法の現場で、これ以上注意深く施工されているとは信じ難い。おそらく、もっと頻繁にハンマーが活躍しているに違いない。気象条件に左右される現場施工という現実の中で、精度を保つ施工方法を早急に開発して欲しいものだ。(もちろん、数年後には改善がされた。)

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