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ちびっこ達のブーイング

「加工を間違った材料は明朝のお届けになります。申し訳ありません」
真黒に日焼けした後藤さんが結論を出した時は、日はすっかり暮れていた。神奈川県下にある提携先のプレカット工場までは、百キロを超える。それに今頃は帰宅ラッシュ時。今日中の修正は無理と判断し、誰もが片付けに入っていた。

棟木と呼ばれる屋根の一番高いところの部材が納まっていない。それなのに、上棟式を挙行してもよいのだろうか。

「そんなのどうだっていいでしょ。もう子供達は待てません」

確かに迷っている場合では無かった。幼稚園の園児や小学生達が現場の入り口付近で騒ぎ始めている。辺りは刻々と暗闇が迫る。ここで、「上棟式は中止」なんて言おうものなら、私のかわいい子供達は、明日以降、仲間からイジメにあうに違いない。子供達に罪はないのだ。もともとあまり神仏に頼る私でもないので、クレーンを返した後に、上棟式決行の決断をした。

既に2時間以上も待たされた子供達のイライラはピークに達している。妻は見かねて、先にモチ投げの儀式を挙行する。やおら、二階からオモチやお菓子、そしてティッシュに包まれたおひねりが降ってきたが、暗くて床に落ちたお菓子がよく見えない。子供達の悲鳴に似たはしゃぎ声が、周りにこだまする。投光機に照らされた子供たちは、汗だくで地を這いながらほふく前進、洋服をドロドロにして帰って行った。

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