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外断熱と内断熱、どちらがいいの?

このところ、住宅建築雑誌に、外断熱の特集が多い。そういえば、私の事務所へ住宅の相談に来られる人達の多くから、断熱についての質問を受けることが多くなった。どうやらこれから家を作る人たちにとって、関心事のトップ3に入るのではないだろうか。となれば、職業的にも「よく知らない」では済まされないので、少し前から関係する書物を購入して密かに勉強を続けている。

外断熱とは外気と最初に出会う場所で建物を断熱してしまう方法で、実際には構造材の外側に板状の断熱材を張り、さらにその外側に保護材を兼ねた防火性能がある外壁材を取り付けるやりかただ。コンクリートとか木材とかの材質の違いはあれ、構造体自体が外気の温度差の影響を受け難い点からすれば、建物本体の耐久性が増すことにもなるので、考え方としては断熱の理想形に違いない。さながら、薄着のマリリンモンローがミンクのコートを一枚羽織って、雪模様の五番街を闊歩している、そんな感じなのだろうか。

北海道などの極寒の地では、コンクリートの住宅で外断熱にした場合、昼間に室内でストーブを焚いていれば、夜になってストーブの火を消しても翌朝まで室内の温度がほとんど下がらないという話をよく聞く。これは、構造体としてのコンクリートが蓄熱体としての役目を果たすらしく、一度温まってしまえば、外の冷気と断熱されている理由で、なかなか冷めにくい理屈だ。これが外断熱工法の優れた長所でもある。

ただ難点もあるという。一つは断熱材の保護や防火のために取り付ける一番外側の壁の選択肢が狭くなること。最近流行のコンクリート打ち放しの場合は無理だし、木造でも左官仕上げを所望されると、それなりの下地を改めて作る必要があり、施工に手間がかかることになる。さらに、完璧を求めれば、屋根や庇、バルコニーや基礎まで外断熱仕様にしたくなり、これまた、ひと騒動となる。凹凸がある部分には、施工が出来ない場所も出たりする。

対照的な内断熱工法は、コンクリートや木材などの構造体の内側に、断熱材を貼り付けたり吹き付けたりする方法で、現在でも鉄筋コンクリート造の建物では圧倒的にこの工法が採用されている。また、木造の軸組み工法では、外壁と内側の壁の間に、ちょうど柱の幅だけ空隙が出来る。その隙間を利用して、そこにグラスウールなどの断熱材を充填する方法を一般に内断熱と呼ぶ。実に合理的な方法で、施工の容易さもあって、全国レベルで普及している。施工が楽ということは工事費も安くなり、当然のことながら工事会社や職人には受けがいいらしい。

施主のいない建売住宅では、もっぱらこの内断熱が標準仕様となり、注文住宅でもこれまでは施主の多くが何の疑問も持たなかった。
「断熱材は入っていますよね」
「はい、勿論、たっぷり」
これで終わっていたようだ。おそらく、ただ暑い寒いの対策ならば、この方法で事足りるのだろう。

ところが、数年前からこの内断熱に黄色信号が点滅し始めた。どこかの学者先生や、熱心な建築家によって、この断熱方法の弱点が指摘され始めたのだ。その弱点とは何か。簡単に説明すれば、充填した綿のようなグラスウールの内部に、水蒸気が溜まる「結露」という自然現象が発生し、この水滴が、肝心な構造体の木材を腐らせてしまうらしいのだ。自分で観察したわけではないので、その信憑性は不明だが、条件が重なればありそうな話でもある。

戦後、木造住宅の多くが、火災の延焼から免れるために、古来からの真壁を諦め、柱や梁をスッポリ包んでしまう大壁工法が一般的になって久しい。熟練の棟梁たちが常々口を揃えて言う
「柱や梁が蒸風呂状態でかわいそう」
の言葉を思い出すと、その惨状は壁を剥がさなくても多少は想像できる。ただし、木材は生き物と言われるように、ある程度呼吸しているので、
「多少の水蒸気なんか吸い取ってしまうはず」
という別の見解もある。相手は自然現象。地域性やその立地する環境にも大きく影響されるので、この内部結露説に手放しで同調できないまでも、注意は必要かも。

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