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ホテルのような室内を目指す

敷地は狭く、空間は三階建てで、横ではなく縦に伸びている。室内は、不燃ボードで覆われ、木などの燃えやすい材料は一切使えない。窓なんて、隣の視線を気にして全て曇りガラス。隣地は木賃アパートで、周囲の環境など、とても取り込むどころでは無い。むしろ背を向けたいところ。何もかもが逆にある。生まれ故郷の岐阜の田舎であれば、実現可能なライト風の自然派住宅は、この東京の住宅密集地では、きっぱり諦めざるを得なかった。

さて、では自邸のコンセプトはどうしたものか。振り出しに戻ってしまった。いつものことながら、深夜の事務所で夫婦ふたり、熱いお茶をすすりながらアイデアを練った。古家の一階を改装した狭くて息苦しい事務所、晩秋の夜は深々と冷える。

「草原風がダメなら都会的にしたらどう?逆を行くしかないでしょう」

壁のシミを隠すために、これまでの竣工写真が数多く貼ってある。ほとんどが見栄えのするホテル建築の写真だった。妻はそれを眺めていて、突然思いついたに違いない。

「都会的とは、例えばホテルみたいな空間ということ?。確かにすべて不燃仕上げだもんな」

以前の設計活動の中で、最も多く深く携わってきたのはホテル建築だった。その意味では、得意分野と言ってもよいだろう。何とかなるかもしれない。人間「好きこそものの・・・」と言うではないか。こうして私の自邸は「ホテルのような住宅」を目指すことになった。

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