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夢が叶ったダブルシンク

洗面室は、ホテルらしく大理石のカウンターにしようと最初から決めていた。ホテルの仕事で度々訪れる岐阜県関ヶ原市の石材会社で、安く加工してもらう約束が出来ていたからだ。端材置き場をうろついて、高級感のある黒御影石に決めた。これに真っ白な洗面器を組み合わせれば、都市型ホテルのひとつの定番となる。この場合の洗面器は、カウンターに開けた大きな穴の下にあてがうアンダーシンクと呼ばれるものから選定することになる。

広さにやや余裕があったので、洗面器はふたつ同じ物を並べることにした。実際、家族6人に洗面器ひとつでは、使用時間が重なってブーイングが目に見えていた。それに、ホテルのスイートルームや高級なリゾートでは、ダブルシンクは常識なので、庶民特有の変な憧れがあった。ここで、やっとその夢が叶う。

ふたつの洗面器は同じ物を発注したが、水栓も同じでは遊び心に欠ける。ひとつは、お湯と水が別々な握り玉となっている混合水栓を、もう片方は、レバーハンドルの混合水栓となった。実はこれ、以前にホテルを建設する際、モデルルームで試験的に取り寄せた試供品だ。つまりデザインの検討用で、実際に水を出したものではないので新古品だった。

これらの品物、いつもは産業廃棄物となる運命にあるのだが、自邸の着工も迫っていたので、現場事務所にそっと保管しておいた。どちらもドイツ製のグローエで高品質。この程度の役得でもなければ、激務の設計監理の仕事は割が合わないというもの。

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