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嫌われた石油ストーブ

現在住んでいる古家は、築三十年以上なので、電気のコンセントやガスカラン(ガス栓)などの設備がまったく不十分で、暖房はもっぱら石油ストーブに頼っている。その灯油の補給には、あのドクター中松氏が発明したらしい大きなスポイトのようなものを使用するわけだが、これが意外と中途半端にできている。どんなに注意を払っても手は汚れ、床にも灯油がこぼれ出す始末。

部屋の隅に置かれた石油ストーブから「ピーピー」と灯油の補給を催促するブザーが流れると、テレビを見ながらくつろいでいる夫婦に一瞬、緊張感が走る。
「今日は誰が補給するの・・・」
この日常には、ほとほと手を焼いていたので、新居になったら、絶対石油ストーブは使わないと心に決めていた。

これまでの古家では、一階が主な生活エリアだからよかったものの、今度は三階が住居部分になるので、とうてい灯油タンクを運び上げることはできない。かと言って、エアコンの生暖かい風に頬を撫ぜられる気持ち悪さだけは、ホテルの設計を長年続けている私にとってはトラウマ状態にある。空気の乾燥を和らげようと、熱湯にバスタオルを浸し、それを吊す場所を探し廻る光景は、ホテルの一室では許されても、新居では想像したくもない。そんな理由から、暖房の理想形として、まず床暖房が候補に上ったのは自然の成り行きでもあった。

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