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下地の施工が面倒な床暖房

床暖房の熱を発生する床バネルは通常12ミリの厚さで、これを床の仕上げ材のすぐ下に敷き込むことになるので、工事の早い時期に床暖を施工する範囲と床の材質を決める必要がある。床の下地を調整しないと、段差が生じるからだ。また、床材はそれ自体が暖められるので、熱伝導率がまあまあ良くて、変形し難い物が望ましい。石やタイルなどは問題ないが、フローリングの場合は、やや注意を要する。特に無垢のフローリングは、熱によって反りやヒビ割れが発生したり、乾燥で隙間が大きくなるなどの不具合も報告されている。床暖用として売り出されているフローリングの大半が、合板の上に薄くスライスした単板を貼ったものであるのは、こうしたクレームを避ける為の対策なのだ。

しかし、私の施主の中には、それを承知で床暖パネルの上に、無垢のフローリングを敢えて希望された人もいて、その後「やり直したい」との依頼はないので、どの程度無垢材が暴れるのか、その真相の程は判らない。意外と乾燥した良質な無垢のフローリングは、リスクが少ないのかもしれない。これこそ程度問題で、私はコルクタイルにしてしまったからこの選択について悩むことはなかったが、今になって考えれば、多少の不具合は覚悟で、無垢のフローリングを実験的に採用しても良かった。

自邸では、竣工が春先だったので、床暖房の運転を開始したのは、引っ越しから半年ほど経ってからだった。ガスによる床暖房では、熱源機が給湯機を兼ねる場合が多い。私の場合、自宅の他に階下の事務所にも床暖房を導入していたので容量的に無理があり、給湯機との兼用は出来なかったが、試運転の後、半年間休んでいた床暖専用の熱源機は、秋口には特に支障もなく動き始めた。

熱源機の設置場所は他に適当な場所が見当たらず、とりあえず婆ちゃん(私の実母)の部屋に面するバルコニーになっていた。床暖房パネルを敷き込んだエリアのほぼ中心で、一番効率がよいとの判断だが、内心心配が一つだけあった。給湯器の騒音と振動だ。年寄りは、小さな物音にも敏感で、普段から、
「一度目が覚めるとなかなか寝付けやへんで」
と愚痴を聞いていた。せっかく南向きの一番いい部屋をプレゼントしたのに、騒音付では台無しだ。しかし結果は以外な程静かで、孝行息子の座は守られることになった。

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