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ユニットバスを嫌う理由

自邸では、三階に浴室を置くことになるので、もちろん最初はユニットバスが本命だった。現場で防水をして壁にタイルを貼る在来工法の浴室も作れる。しかし、木造ゆえに、柱や梁の乾燥、地震などで将来骨組みが歪む可能性がある。それが原因で防水層が切れて、漏水するリスクを考えれば、単体としてパッケージされたユニットバスの方が安全に決まっている。三階で漏水すれば、被害は甚大だ。

ここはひとつユニットバスを前提に、市販のものをどこまで改良できるか追求してみようと考えた。私はこれまでのホテルの仕事で、何度となく大手衛生器具メーカーとこの分野で改良を重ねてきた実績があるからだ。

元来、高級なホテルではユニットバスの工業製品らしさを嫌う傾向がある。されど、漏水のリスクは避けたい。そこで、本体はユニット化するが、洗面カウンターに大理石を使ったり、壁に大判タイルを貼ったりして、見た目には現場で作る在来工法と何ら変わらないように工夫を凝らしている。一般の利用者は、そこまで気が付かないだろうが、私は職業柄、ホテルを利用する度に、FRP製の防水パンをいかに隠しているかで、そのホテルの設計者の技量が判る。この辺りがうまく処理されていれば、きっと他の部分もよく考えてあるからだ。

しかしながら、漏水の危険が少ないユニットバスは、その宿命として、大量生産を前提としているので、個別の対応にはあらゆる面で適さない。つまり、個人の住宅での勝手な寸法やデザイン面での要望には適応できないことになる。したがって、一般的な住宅では、誰もが仕方なく複数のユニットバスメーカーのカタログの中から適当な機種を選び出し、床、壁、天井などを選択する。さらに値段と相談しながらカタログ後部のオプションページから、多少の仕様を追加することで個性を獲得した気分になって「ハイ、発注」となるのが実情だ。

たしかに最近の住宅用ユニットバスは、性能面ではよくできている。作る側に立てば、全国津々浦々、老若男女の万人に快適且つ安全なものでなくてはならない。各メーカーの開発チームは、このことを念頭に日々奮闘を続けているのだろうが、如何せん大量生産による合理化を優先する姿勢に変わりなく、どうしても工業製品らしい無機質な意匠が私には馴染めない。

たとえばバリアフリーの名目で、バスタブに妙な曲線を付けてみたり、偽りの大理石風壁パネルを採用したりと、他社との差別化のために「これでもか」という意図が見えすぎる。どうしてもっと自然でシンプルな形に落ち着かないのだろうかと素朴な疑問が湧いてくる。一言で表すと「大人のデザイン」とでも言えようか。

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