ARTICLE

直感で決めたホワイトのサッシ

具体的なサッシメーカーとしては、アルミの肉厚が他社より少し厚いと聞いて、YKKを指定した。その真相は不明だが、多少センスも良さそうに見えた。しかし、シルバー色が無いのなら背に腹は代えられない。他のメーカーも調べてもらったが、当時は、どのメーカーにもシルバーの既製品は存在しなかった。

ただし、この原稿を書いている数年後の昨今では、こうした切なる設計士の声に答えて、各メーカーがこぞってシルバー色、またはステンカラー色を登場させているので、ちょうど転換期だったように思う。とにかくこの時点では、白、黒、茶から選択するしかなかった。

「どうせどの色も建売住宅っぽくて大差ないや」
投げやりな境地になっていた時、そこはそれ、得意な直感が働いた。ふとニューヨーク五番街のオフィスや店舗などで白いサッシが多用されていた風景を思い起こして、衝動的にホワイトに決めた。思えば自分でも呆れるほどイイ加減な理由だったが、建築家の端くれとしてのプライドも多少あって、ガラスを抑えるコーナービートと呼ばれるゴムの色を、あえてブラックに指定した。白いサッシにメリハリが効いて洒落た印象を醸し出すはずだった。ところが、その目論見は見事にはずれることとなる。

ご存知のように、私の自邸は周囲のほとんどが建物に囲まれていて、近くでサッシを見ることはまったくできない。さらに、内部からは網戸の枠で隠れてしまい、黒のコーナービートなんかほとんど見えてこなかった。アララ

「先生、サッシはまだですかい」
清水棟梁から、毎日催促され、頭が痛かった。効率的な設計施工を歌い文句にしている当社だが、時々、工務店の機能が十分に果たされていない。建物を少しでも良くしたいと考え悩む優柔不断さが、工事を遅らせる原因だった。

なんとかa、サッシの色が決まった。次に急いで型式、つまり引き違いとか、ハメ殺しとかの形状を確定しなければならない。日本の気候を考えれば、やはり大きな開口部は引き違いが一般的である。建築家の設計では、ハメ殺しのガラス窓が多用されているが、デザイン的には優れているものの、ガラス拭きが困難だったり、風通しの悪さを考えると、美しさばかりを優先することはできない。結果的には、防犯を意識して、一階の玄関にある大きな窓と、階段を上がった三階のホールの窓だけをハメ殺し窓とした。どちらも裏表から手が届くので、清掃は楽だと考えた。

一階では、ドロボウ君が侵入しようとした場合、ハメ殺しだと自分の体全体が通過できる穴を開ける必要があるので、よほど綺麗に破壊しないと、彼は血だらけで逃走しなくてはならない。竣工すると、多分にカッコいい建物に見えるはずだが、体が血まみれになる危険を冒してまで侵入したくなるほど金持ちの家には見えないだろう、と読んだ。

関連記事一覧

単行本

建築家が自邸を建てた その歓喜と反省の物語

Amazon&大手書店で好評発売中!

Amazonで買う

最新記事