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無駄な空間を逆手に取った玄関

自邸の玄関はこの陰気なエリアに位置することとなる。多分、家相を見てもらおうものなら、どの先生も「きわめて凶」とのたまうに違いない。しかし、こんな玄関でも良いこともある。

まず暴風雨の時でも雨が絶対吹き込まないので、車の乗り降りが濡れないでできる。そして直射日光が当たらないので、木製の玄関ドアが使用できる。自邸の玄関は大きな木製ドアと前から決めていた。しかも製作はヒノキ工芸の戸澤さんに依頼することになっている。

次に、玄関の扉は内開きか外開きか。設計者仲間で時々話題になる。わが自邸は、外国映画に習って内開きとした。というのは冗談で、内開きにしたのには別の理由がある。この玄関は車の回転エリアに面しているので、車が動いている時、家族の誰かが外にドアを開けると危険なのだ。これが内開きを選定した単純な理由だった。

内部の玄関ホールに十分の広さがない時は、引き戸か外開き以外に方法がない。しかし、何度も言うように、私の場合は少しだけ広さに余裕があった。ドアを内開きにしても、まだ靴を脱ぐスペースは十分残っている。

そもそもわが国では、雨仕舞の関係で、既製品の玄関ドアには内開きの標準仕様は存在しない。つまり内開きのドアはタブーなのだ。常識を否定して、果たしてどんな結末になるのだろうか。自分で体験して答えを出したかった。

ドアというもの、一般的には丁番が見えないのがカッコイイ。原則として開く側に丁番は見えるので、内開きではドアは室内に開き、外から丁番は見えないことになる。この面でも内開きは美しい。さらにこの場合、ドア枠の奥に扉がつくので、奥行き感ができてドアは、さらに立派に見えるのもうれしい。この良い例がホテルの客室のドアだ。廊下側に開くと危険なので必ず内開きとなっていて、枠も強調されるので単純なスチールドアでも豪華なものに見えてくる。この辺りも「ホテルのような家」のコンセプトに合っている。

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