「お任せします」は最上の殺し文句

その頃、私の設計施工で建てられた住宅の内覧会があった。そこに参加されたひとりの奥様と会話が弾んだ。普段は人見知りで、営業の話などまったく苦手な私が雄弁になっていた(らしい)。彼女の美貌も手伝ってか、話はどんどん盛り上がる。とかく建築家は「美しいもの」に弱い人種なのである。

数ヵ月後に適当な敷地が見つかったと、その奥様から設計の依頼があった。会社経営のご主人の仕事柄、いわゆる豪邸に招待されることも多いと聞いてビビった。話を聞くと、このご夫婦、マジに目が肥えていた。というか、よく物事が見えている。資金的にも多少余裕があるようだが、
「大理石を貼ったような『金ピカ』の住まいはイヤ」
と最初からハッキリ否定された。贅を尽くさぬとも、必要最小限のものはきちんと備わった「玄人好みの家」を求められたのだ。相手にとっては不足はないどころか、教わるところが多そうな先輩夫婦に見えた。

さらに追い討ちを掛けて、うれしい言葉が続く。
「希望の条件はこれだけです。後はすべてお任せします」
設計者にとって、これ以上の殺し文句があるだろうか

「な、なんと。どえりゃあ、嬉しいでいかんわ」(岐阜の方言)。
依頼する際のすべを知り尽くした御仁たちだった。一本どころか三本は取られた感じで、身が引き締まった。

建築家 可児義貴からメッセージ

ショールームでお客様からご質問いただく、「可児さんてどんな経歴?」から、「なぜ設計事務所が住宅建設を?」「職人集団『チーム・クウェスト』って?」「SE構法にしている理由は?」「これまでの建設実績は?」「ホテルのような家づくりとは?」「予算は?」まで、本音で語っています。