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机上の計算からでは解決できないこと

これまでの木造住宅は、ある意味で大工の勘に頼ってきた部分が多い。彼らの経験から生まれる梁や柱の太さの決定は、強度もさることながら、まずこのような不快感を生じさせない配慮がされている。今回の出来事から、建築には机上の計算からだけでは解決できない要素が存在する事を痛感した。

同様の話を聞いたことがある。最近、各自動車メーカーがこぞってドアの閉まる音を研究しているそうだ。ドア音のデザインに力を入れているという。ドアが閉まる時の「ボン」とか「バン」という音の良し悪しで顧客は高級感や安心感を感じ、購入の意思決定に影響を及ぼすのだそうだ。多少車好きの私にも確かに思い当たる節がある。つまり、ドアは機能的にただ閉まればよいだけでは済まないのだ。このあたりがモノ作りに携わる者たちの心をくすぐる要因なのだと思う。

清水棟梁と相談の結果、鉄骨で補強することにした。振動の大きい梁の下端に鉄骨の梁をもう一本追加することで振動が抑えられるはずだ。なんたって、施主から「全面的に任されている」のだ。ここは奮発して自腹で合計3本の鉄骨を発注した。その間、仕事は一週間遅れた。

「あなた、この現場、ほとんど収益無いわよ」

「仕方がないだろう。研究開発費と思って許して。お願い」

その後は、さすがに特筆すべき問題もなく、無事に竣工を迎えられた。こうして多くの犠牲を払いながらもSE構法の実験を終えた。(と書けば施主の関根氏にお叱りを受けるだろうが)しかし、この貴重な経験と自信が、後日、自邸でのSE構法の採用に拍車をかける要因になった。

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