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昔から壁は漆喰と相場が決まっているものの

次に、出隅のオンパレードとなる廊下や階段、居間やダイニングといった家族共用のパブリックスペースの壁は何が良いのだろうか。実験でいろいろ試してみるのも有りと考えたが、きっともう一人の施主に「落ち着かないわ」と却下されるに決まっている。

そもそも出隅に強い材料なんて、そんなに有る訳も無いので、残るは木か左官材となる。内装制限の関係で、木は面として使用できないので、左官職人による塗り壁が候補に踊り出た。そういえば最近、「呼吸する壁」とか言って、漆喰や珪藻土が何かと話題になっている。とすれば、筆頭はもちろん漆喰だろう。下塗りに中塗りそして上塗りと結構手間がかかることから、近年、お目にかかる機会が減ったが、湿度調整までこなし、しかも人体に無害な内装材としてはこれ以上のものは少ないのではないかと思われた。

石灰を主成分に、固まりやすくする為のノリと割れを防ぐスサが入った漆喰は、仕上がったばかりの純白の、やや押さえ気味の光沢がなんとも凛々しく、奥ゆかしい。つい、あの博多人形を連想してしまう。確かに本物を感じさせる漆喰は、年を経るごとに味が出てくる材料のひとつでもあるが、難を言えば、手垢などの汚れがつき易いことだ(これは女性も同じか。いつまでも純白の美しさは・・・)。

それはともかく、不燃材のプラスターボードでは十分な下地が作れるわけは無く、将来のひび割れも心配だ。またまたここで迷いが生じた。漆喰がいいことは十分承知の上でも、すぐに採用するのは躊躇された。

「たかが自邸、されど自邸」
理由は簡単。建築家の自邸ともなると、何か新しい挑戦が無くては始まらない。古き良きものばかりを集めても進歩がないからだ。建築家は辛いのです。いつの時代でも、挑戦者であらねばならない悲しい性(サガ)を持っている。

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