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湘南のガレージハウス

 「定年を機に湘南の風を感じながら暮らしたい」そう考えたご夫婦は、神奈川県二宮町の高台にある分譲地の一画に終の棲家を建てることにしました。インターチェンジを降りてすぐの長い坂道を登りきると、なんと最初にこの敷地が現れる。しかも角地。いわばランドマーク的な存在となる場所でした。

 バス通りでもあるため、高い塀を立てて人目を避ける案や、西日の直射を避けるために、窓のない外壁がそそり立つ案が最初に浮かびました。しかしそれでは、余りにも周辺の環境にそぐわない身勝手なたたずまいになってしまう。かと言って、外に向かって開けば、当然のこと、バス通りを挟んで周囲の民家からの視線を日常的に感じながらの生活になってしまう。長いディスカッションを経て辿り着いた案は、角地を庭として開放し、それを囲む形で建物を配置するというものでした。

 しかし、そのままでは西日の直撃をまともに受けることになる。この難題は、深いテラスの屋根とシンボルツリーとなる2本の樹木に託すことになりました。外部からの視線は、垣根代わりの縦格子を45度に傾けて建てることで、透け感があり、且つ、外からは部屋の内部が見えないアイデアを思いつきました。結果として、風通しもよく、カーテンが無くてもプライバシーを守ることに成功しています。
ご夫婦は、赴任先の米国で、フランクロイドライトの建築に触れ、このテイストを取り入れたいとの希望から、かの建築家が多用したウォールナット材と大谷石を内装に採用することで、落ち着きのあるインテリアになりました。

 仕事柄、カーレースの現場にも度々足を運んでいるご主人は、ガレージ内までを断熱するほどの車好き。書斎からは、ガレージ内の2台の愛車の先に、湘南の風に揺れる庭の樹々を見通すことができます。シャッターが閉まっていても、明るいガレージと書斎で、定年後は読書や趣味の作業が満喫できる至福の時間が待っています。

角地に位置するランドマーク

交差点の角に庭を配し、街並みの景観に配慮しています。縦ルーバーに囲まれた中庭の内外に植えられたモミジの大木が西日から室内を守ります。

ガレージのシャッターと簡易な玄関

外観の色彩は周囲の樹々に同化するグリーングレー。開口部の形態もシンブルに。

外からの視線を遮る中庭

中庭を取り囲むのは木製のルーバー。板を45度に建て並べることで、街路からは室内の様子が見通せない工夫がされています。

ガレージ内にある玄関

玄関はガレージを通ってさらに奥にあります。ガレージが解放されている時でもセキュリティは守られています。

玄関ホールと廊下

米国の建築家フランク・ロイド・ライトの作風を踏襲した室内。ウォールナット材と大谷石の表情が落ち着きのある空間を作り出しています。

キッチン&ダイニング

相模湾に続く広い空を取り込むために、大きな窓を高い位置に設置しました。 周囲からの視線が気にならないメリットもあります。下部の細長い窓は、湘南の風を取り入れる役目を担っています。

中庭と一体感のあるリビングダイニング

リビングダイニングからは常時、中庭の様子が眺められ、季節を感じることができます。

書斎からガレージと中庭を見る。

書斎の窓はインナーガレージに大きく開かれ、愛車の他に中庭の樹木も眺められます。シャッターを閉めていても明るいガレージ内は多目的に利用可能です。

洗面化粧台とミラー

無垢の木材と天然石で構成されたシンプルな洗面室。工場製品に無い素朴さと温かみが感じられます。

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