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排水対策は、我が家の生命線

電気設備を人間の身体にたとえると、神経や血管だった。次に、給排水設備は、食道や腸などの消化器官とみなすことができる。人間でも、この経路に異常が起きれば、手術となり、ガン細胞の発見が遅れれば、死に至ることもある。同じように、周囲が腐って、住宅そのものに大打撃を与えることになる給水管や排水管は、なんとしても点検が可能なようにしておきたい。

具体的には、床下に侵入できるよう、大きめの点検口を取り付ける。また、配管は基礎のコンクリートに埋め込まないことだ。ドブの匂いが気になる頃には、手遅れの時もある。今回の自邸では、この給排水設備が必要な場所、つまりキッチンや洗面室、浴室、それにトイレ、これらはほぼ同じ所にまとめて配置している。これはプロを自称する建築士とすれば常識の中の常識。配管の距離が少なければ、施工のコストが下がるし、将来のトラブルも少ない。万一の場合にも、故障箇所の特定が容易になるメリットがある。

一般的に、給排水設備で完成後よく問題となるのが排水音。シャーとかゴボゴボというトイレの流れる音が聞こえるようでは実に不愉快だ。シャビシャビという雑排水の流れる音さえも気になりだしたらアウト。神経に障り、イラつく人もいるだろう。私は長くホテルの設計に携わってきたので、この排水音にはほとほと悩まされたひとり。ホテルの場合、後で支配人に
「参ったなぁ、どうにかしてください」
と懇願されても配管スペースが狭いため、簡単には改善が難しいのが現実だ。

私の自邸では水廻りのエリアが集まった場所の直下が、賃貸用のアパートとなっているため、特にこの排水音には気を使わねばならない。こんなことで解約が相次いだら、私たち一家は路頭に迷うハメになる。三階の私たちの生活の排水管は、二重床として、出来るだけ早く外壁から外に突き出すことにした。多少、外からの見栄えは悪いが、万人の目に触れることはない。

一度床を作って配管をした上に、もう一度浮かせて床を作っておけば、階下に足音や排水音が伝わりにくい。万一、その間で漏れたとしても、床を剥いで自分のエリア内で補修が可能になる。この方法を二重床あるいは浮き床と称し、最近の分譲マンションでは常識的な施工方法となっている。

「先生、念のため、排水管に鉛のシートを巻きつけますか?」
水道工事担当の岩澤さんが気を効かせてこう言った。長さが短いので、いくらでもない。即座にOKしておいた。
「ついでに、余った断熱材のグラスウール、あれも巻いといて」
グラスウールは、綿のような材料なので、吸音材として多少の遮音効果が期待できる。ここまでしても木造の宿命として、壁や床の遮音効果は低く、深夜の排水音が完全に遮断できるかどうかは天のみぞ知る。

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