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伝統の障子をどこかに使いたい

家を新築する時は誰でも大小の夢があり、あれこれ想像が膨らむものだ。今日では、だいたい奥さんの夢が実現することが多い。現代の女性達は得である。そんな時は決まって白い壁の洋風モダンなスタイルが好まれ、障子といえば生まれ故郷の破れかかったあの黄ばんだ紙のイメージしかないのだろうから、最初から却下されてしまうのも無理はない。

しかしながら、我が家では、妻のケイコさんが無類の和風好き。工事を開始する直前まで、廊下や居間の床を全て畳にする案で盛り上がった。

こじんまりした高級和風旅館によく見受けるスタイルである。しかし、
「ホテルのような家」
というコンセプトに決ってから、
「やや無理があるのでは」
ということで、やっと床がコルクタイルなどに落ち着いた経緯がある。どうせ泊まりの来客なんて多くない。もしもの場合、すぐ近くの新宿駅周辺のホテルの方が喜ばれるはず。身内は客じゃない。
と我々夫婦は最初から冷めていたので、客間としての座敷は不要と考えた。

で結局、畳の部屋は婆ちゃんの個室と、ケイコさんの着物の着替え場所兼物置としての四帖の予備室のみとなった。さて、ここに障子が必要か、迷ったが、婆ちゃんの部屋については、いちばん日当たりの良い東南に位置させていたため、障子だと朝日が入り、ゆっくり寝ていられないだろうとの孝行息子の判断から、勝手にカーテンにしてしまった。

ところが、後で聞けば、
「朝日の昇る頃には、とっくに目が醒めとるで」
とのことである。

そしてしばらくしての感想は、
「昼間にカーテンを開けておくと畳が焼けてしまうであかん」
らしい。そんなことならカーテンより障子の方がずっと良かった。恥ずかしながら、建築資金の一部を援助してもらった脛かじり息子としては、工事の前に少しは意見を聞いてやればよかったと少々反省ぎみ。

婆ちゃんの部屋にも障子を設けていないので、まして北側の予備室に障子は贅沢だった。したがって、我が家でも危うく障子は無くなる運命にあったのだが、そこにストップがかかった。何としても和風の風情にこだわる妻は、
「どこかに障子のぬくもりが欲しいよね。でも古臭い和風はイヤ。現代風のシンプルなデザインでヨロ。(ヨロシクの略らしい)」
と難しい注文が来た。さらに、ジャブが飛んでくる。
「その辺りの難しさを上手く処理するのが建築家でしょ」

それでも我々建築士部族は、こうした施主の嘆願言葉にめっぽう弱い。
「じゃあ、やってやろうじゃないの。任せなさい」

工事は相当進んで、大工の工事が終わろうとしている。現場でぐるりと見渡しても障子の効果が最も期待できるのは、南面した居間の大きな引き違いサッシと子供部屋の窓くらいしか見当たらない。

子供部屋には、いくらなんでも障子は不釣合い。残るは居間の大きな開口部のサッシ。このサッシの前には、最初から憧れの大型テレビを置く予定だったので、電源やアンテナ線も床から突き出してある。

思えばここには明かりは欲しいが、常に目線が向くテレビの背景がアルミサッシというのも無粋なもの。しかも値段をケチったので、大きな窓の割には4枚の引き違いサッシに薄いガラスが入っている。確かに断熱効果がすこぶる悪そうだ。
「そうだ、ここだ」

ここに障子を入れれば、隣の高層マンションの住人とも視線が合わず、部屋の断熱効果も期待できる。おまけに洋風のインテリアに障子で、あの大使館風の雰囲気も悪くはない。妻の
「古びた和風にしないでね」
という条件には、組子を大きくすることで見慣れた障子のイメージを払拭することにした。そして、ついでにこの上にある高窓にも障子を取りつけて統一感を出すことにした。この高窓は最初から明かり取りの目的でハメ殺しにしてあるので、障子もケンドン式にして固定してしまった。

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