たった五分の近隣説明会
借地の契約が成立した直後、管理会社の担当者が姿勢を正して別の書類を取り出しながら切り出した。
「次に少々、折り入ってお話が」
来た来た。遂に来たか。俺たち知ってるぞ。高層マンションの計画だろ。
「実は、地主様が相続対策も兼ねて、お宅様の隣でマンションを建設いたします。ちょうどお宅様の敷地が北側になって日影の影響を受けるものですからそのお詫びとご説明を」
やっぱり本当だった。間違いなく、私達が新たに手に入れた敷地は、すっぽりと高層マンションの影に隠れてしまう。
「地主のN氏もこのことを気にしておりまして」
当然でしょうが。歯切れの悪い言い訳を聞きながら、私は渡された基本設計図を恐る恐るめくってみた。新築されるマンションの間取りや外観図なんかどうでもいい。要するに配置図と日影図が見たい。設計は大手のマンションデベロッパーだから嘘は描いて無いだろう。両者、しばらく沈黙が続いた。
すると、だんだん私の顔が赤らんできた、らしい。その変化を妻は見逃さなかった。
こんな世間知らずの、運と勘だけで生きている夫でも、今までマンションの設計は仕事として複数こなしている建築士。図面を見ただけで、完成後の建物や周囲の状況も手にとるように分かるはず。そのプロが赤面している。
「ああ、やっぱり日当たり最悪なのね。オーマイゴッド」
そう妻は覚悟したらしい。
ところがである。いつになく低い声の私は次のように結論を出した。
「これから永い年月、お世話になる地主さんの建物ですので、涙を呑んで何とか我慢いたしましょう」
意外な私の返事に、妻は悔し涙を見せた。長居は無用。担当者は何度も頭を下げて帰って行った。きっとこの私を善良な小心者と判断し、苦笑して帰っていったに違いない。まあ、実際その通りなのだが。
建築家 可児義貴からメッセージ
ショールームでお客様からご質問いただく、「可児さんてどんな経歴?」から、「なぜ設計事務所が住宅建設を?」「職人集団『チーム・クウェスト』って?」「SE構法にしている理由は?」「これまでの建設実績は?」「ホテルのような家づくりとは?」「予算は?」まで、本音で語っています。